2017/07/03
直言居士-ちょくげんこじ

「10月になれば、インフルエンザの予防接種を受ける従業員が多くなる。それでも全員が受けるわけではないし、何種類の予防接種をしても罹患する可能性は残る。人間だけでなく、オフィスにも予防接種が必要なのでは」と話すのは、デルフィーノケア代表取締役の宮本貴司氏。
1990年代後半、まだインターネットの黎明期ともいえる時期にネットセキュリティ事業に携わった。当時は学校教育の現場でインターネットが活用され始めた時期でもあり、学校でのセキュリティ強化に努めた。その後、デルフィーノと出会った宮本氏は「感染症とインターネット、モノは違うが『ニーズはあるけれども市場が確立していない』という点で、セキュリティの黎明期と現在の抗菌市場は似ていると思った」と当時を振り返る。
法医学教室から生まれた感染症対策
同社が展開する「オフィスまるごと抗菌サービス」は、もともと杏林大学の法医学教室で開発された技術。光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)の3つの触媒を組み合わせた抗菌・抗ウィルス・防臭・防カビ剤を、専用の噴霧器を使って室内に散布。壁やドアなどを抗菌コーティングし、ウィルスや菌を不活性化する。ウィルスの感染経路となるドアノブをはじめ、電話機やパソコンのキーボードから冷蔵庫の取っ手の裏までミクロン単位の細かな粒子が付着し、オフィスや施設をまるごと抗菌する。効果はほぼ1年間持続するため、毎年1度、室内で噴霧作業を施せばよいという。
宮本氏は「法医学教室における司法解剖では、従来から感染症対策が重要課題となっていた。ご遺体がどんな病気にかかっているか判別できないため、長く放置されていた場合など、解剖する時にどんな菌やウィルスに感染するか分からない」とする。事態を重く見た杏林大学医学部(法医学部)教授の佐藤喜宣氏は、細菌感染のプロセスや抗菌素材を徹底的に研究。「安心・安全に感染を防ぐ」製品として2004年に共同開発した。
そして2015年にデルフィーノの製造・販売や感染症予防のコンサルティング会社として設立されたのが「デルフィーノケア」だ。現在では法医学教室だけでなく、遺体を取り扱う警視庁や県警本部をはじめ、消防、自衛隊から学校、一般企業まで幅広い施設の感染予防対策に活用されている。

オフィス内での感染拡大を防ぐ
大手メーカーで採用されたケースでは、毎年10人~20人がインフルエンザ感染により欠勤していたが、抗菌コーティング後はオフィス外で感染したとみられる感染者が3人出たものの、オフィス内で感染が拡大することはなかったという。
「企業BCPにおける感染症対策と言えば、従業員にインフルエンザの予防接種を受けさせたり、手洗い、うがいやマスクの装着を励行したりするなどが多い。もちろんそれらも大事な要素だが、オフィス内では接触感染が多いことも忘れてはいけない」(同氏)
アリゾナ大学のチャールズ・ガーバ教授は、80人が勤務するオフィスビルの入り口ドアに疑似ウィルスを付着させ、それがどのくらいの時間でオフィスに広がるか実験を行ったところ、4時間後には50%以上の従業員の手からウィルスを検出。最終的には70%にのぼった。もっとも多く検出されたのは電話機やパソコン、ドアノブやコピー機からだったが、壁や床はもとより天井からもウィルスが検出されたという。
「ウィルスの主な感染経路は【飛沫・接触・空気】があるが、現在は性能のいいマスクが普及していることもあり、感染原因の50~80%は接触感染と言われている。1人の感染患者から、午前中のわずかな時間でウィルスは施設全体に感染する可能性もある。2009年の新型インフルエンザ(H1N1)のパンデミックでは、ウィルスは60日間でおよそ11カ国に広がった。オフィスの感染を防ぐためには社員1人ひとりに手洗いうがいなどを任せるだけでなく、会社として物理的にも感染が広がりにくくなる対策をとる必要があるのでは」(同氏)
社員の満足度向上にも貢献
「BCP対策と言えば震災を考えがちだが、震災を飛行機事故だと考えるとインフルエンザは車の事故くらいの発生率。実際には車の事故発生率が0.3%~1%なのに対し、オフィスの感染率は5%~10%と言われているので、車の事故よりも発生率は多い。 感染症は毎年発生し、死者も出る可能性もある」(同氏)。
そして最近、宮本氏がよく感じるのは感染症対策は社員の満足度の向上にも寄与することだ。妊娠中や子育て世代の女性社員は、短い時間で結果を出すことを求められることが多いため感染症で長期間休むことは避けたい上に、オフィスから家庭に菌を持ち帰ることもしたくないだろう。
宮本氏は「働くママさんが増えている昨今、「健康経営」の視点からも「オフィスまるごと抗菌」は社員の安心・安全を守り、より満足度を高めるための近道の1つ。ぜひ、企業はオフィスの予防接種を検討してほしい」と話している。

(了)
直言居士-ちょくげんこじの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方