2017/08/17
講演録
4カ国語で規定を作成
日本であれば災害として特に南海トラフ地震や、首都直下地震は要警戒です。火災・爆発も油断をすれば起きてしまいます。情報セキュリティ、情報漏えいも少し前に話題になりましたが、そこに加えサイバーテロなど、重点監視が必要です。
アジアであれば、政情不安とか、戦争・内乱・テロ・誘拐。こういったことには対応を深掘りしています。中国であれば部品調達。法律も頻繁に変わるので、先を見据えた対応が必要です。ヨーロッパですと、戦争・内乱・テロ・誘拐。われわれは、英国、ドイツ、チェコに拠点がありますが、フランス・パリやイタリアに営業活動で出入りもします。最近だとイタリアの地震は、かなり頻発しているので、監視と警戒を続けているところです。
危機対応規定を自前で作っています。内容的には平時の部分と有事とがあり、BCPがしっかりできるように作りました。海外の地域本部の力も借りながら、タイ語、中国語、英語、日本語と4カ国語で作成してあります。現地スタッフに浸透するようにです。あと欲をいえばポルトガル語、スペイン語翻訳で全拠点をカバーできるというイメージです。
リスク影響評価をしてハードとソフトの予防計画を作ります。特にハードは時間がかかり、数カ年になる場合もあります。マニュアルを準備して、ものによってはシミュレーションをしたり、演習もやってもらったりして、最終的に検証、結果をまとめるように進めています。私どもは中国に5つ拠点がありますが、税関で急に通関が止まったり、サプライチェーンが止まったらどうするかといった懸念は常に持っています。法律変更が急に起こった場合など、初動時、何ができるかをメンバーで集まって訓練をした事もありました。
その後に実際事故がありました。中国の取引先が高台にあるのに冠水被害が起こったのです。ダムの警戒水位が超えたので、管理側が突然放水をしてしまった。当然ながら取引先が水浸しになってしまいました。3日後には広州あるいは南京から支援隊が入り救援しました。これも訓練検証からつながる好事例と思っています。
タイでは失敗を二度と繰り返さないために、風化させないよう組織的な運営がなされています。2011年の水害時は1.2mのかさ上げだけでは足りなかったので、2m以上の嵩上げにして、電気設備なども全部高いところに移動しました。
あと、1階にある設備も有事には2階に設備を移動したり、完成品在庫を持ち上げることができるように、外側にエレベーターを設けたりしました。動かしようもない大型の成型機であれば、防水性のパーテーションを周りに囲って水が中に入らないようにしました。
作業で事故のないように、組み立ての訓練も定期で行っています。9月の中旬ぐらいになると、雨季に入りますので2~3カ月間、ダムの3カ所で水位を確認します。タイでは、この様な管理から予兆把握に繋がるよう、業務の一環として地域の拠点間で連携を取りながら対応を図っています。
さらに、必要な点は教育と思っています。海外の現地スタッフが2万人いるので、どうしたらリスクに目がいくだろうかと毎年教育をやりながら意識調査をし、生の意見をまとめて次年度に反映させています。近年海外スタッフも関心が高まり、他拠点のリスク事例ももっと多く取り入れてくれとか、その様な意見も出ています。
教育体制ですが、基本的にはBCM推進室でテキストを作ります。あとは国ごとに事例を作ってもらう。拠点の中で講師役ができる人を拠点長に選任してもらいます。われわれは講師役に、事前にテキストを見せながら、ポイントを説明します。やはり我々にとって東日本大震災とタイ洪水がインパクトが大きかった。しかし時間とともに風化も進みます。思い出したくない人もいるかもしれませんが、忘れさせない(風化させない)ためにはどうするか、そこが一番肝心です。
取引先について。東日本大震災のときもサプライチェーンの中断は大問題でした。それ以降、同じ物でも2社のメーカーを使う、あるいは二つ、三つ工場があり、どこでも作れる会社とおつきあいを心がけています。
またサプライヤー調査も、1次窓口ならすぐ分かりますが、2次3次とサプライチェーンで事故が起きている場合もある。いかにこういう深いところまで連携よく手際よく調査するか、購買マンは、一生懸命対応を図っています。調査票を持って毎回メーカーを見に行って、どのくらいの在庫を持っているか、BCPの視点からこのメーカーはどんなことができているか、停電があっても大丈夫か、万が一の際の復旧日数といった、そんな調査も行っています。
最後に弊社では、発生頻度が低くても起こったら影響の高いものをまず優先して考えるようにしています。カントリーリスクも同様です。想定は高めに見積もらないと、過去の事例の二の舞もある。全体の底上げは、教育以外にはないと思い、BCM推進室のわれわれが仕掛けていくと同時に、現場でもボトムアップで色々と取り組んでいく、そのような対応が重なってこそ連帯感や、相乗効果で強い企業になるのではないかと日々思っています。
(了)
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