第25回:防災活動の次に考えること その7
BCPの訓練③

本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、信州大学特任教授として教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
2020/08/05
中小企業の防災 これだけはやっておこう
本田 茂樹
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、信州大学特任教授として教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
前回は、実際に訓練を行う場合の具体例として「被災状況の確認と安全確保」の訓練について説明しました。今回は「対策本部の立ち上げ」に関する訓練について考えます。
対策本部は災害に見舞われた際、限られた時間の中で、残された経営資源を適切に配分し、事業の復旧とその継続を進めるという重要な役割を担っています。そのため、被災後、速やかに対策本部を立ち上げ、事業継続に向けた対応を進めることが重要です。
●訓練の流れとポイント
(1)対策本部の設置と要員の招集
「本社所在地において震度5強以上の揺れが観測されたとき」等、BCPの自動発動基準が満たされた場合、あるいは対策本部長など事前に定められた発動権限者がBCPを発動した場合、速やかに対策本部を立ち上げます。
本部要員は、自分自身の安全を確保した上で、対策本部に参集します。
(2)対策本部の体制確定
BCPにおいて、対策本部の要員に指名されていても、被災時に負傷している、あるいは外出・出張・休暇などの理由で不在となる従業員が出てきます。この場合は、BCPが発動した段階で参集できた要員で、欠けた役割を補う形で分担を組み直し、対策本部の体制を確定させます。
(3)外部からの情報確認
地震に見舞われた場合、その地震の全体像を把握することは、今後の事業継続を進めるために極めて重要です。自社の所在する地域、そしてより広い範囲の被災状況についても調べます。
電気・ガス・水道などのライフラインや鉄道・道路網などの被災状況と復旧の見込みなどを確認した上で、復旧までの対応方針を検討します。またこの段階で、取引先や協力事業者との連絡チャネルを確保しておくことも重要です。
(4)自社拠点での事業継続の可否決定
従業員、建物・設備、そしてライフラインの被害状況の確認に基づいて、現在の自社拠点で事業を継続するかどうかの決定を行います。
特に、建物・設備に想定以上の損傷があり、その復旧を待っていたのでは、取引先からの要請に応えられない場合は、代替拠点で事業を続けるなどの決定を行う必要があります。ただ、この代替拠点での事業継続は、事前に自社の別の拠点を用意しておく、また協力企業に委託生産を打診しておくなどの準備が必要となります。
(5)社内での情報共有
立ち上げた対策本部で決定した次の事項を社内で共有し、BCPで定めた手順が円滑に進むようにします。
(6)社外への情報発信
取引先などのステークホルダーは、それぞれの関係先が被災後にどのような状況に置かれているかを注視しています。それらのステークホルダーに不安感を抱かせないためにも、自社の被災状況や今後の事業継続方針などの情報を適時に発信することが極めて重要です。
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