2020/08/24
危機管理の神髄
大統領に計画書が手渡される
8月29日木曜日 午後4時24分 ワシントンDC ペンシルベニア街NW、ウィラード・ホテル
大統領がワシントンDCのダウンタウンで満席の聴衆にスピーチをしているとき、副官はゆっくりと歩いてステージを横切り、演壇に近づいて、大統領の耳元で「トリニティ」というコード名をささやく。
大統領は間髪を入れずスピーチを終わらせる。きびきびと歩いてステージを降りるとき、おおげさに笑顔で手を振る。
副官の手元にはペンタゴンから送られた一連の携帯電話の写真があった。それを見た大統領の頭は高速で回転した。巨大な火の玉とミッドタウン全体に放射している星が飛び散ったような爆風の映像である。
大統領とそのチームはこの瞬間のための訓練を何回も行っている。そしてそれが何を意味するかを知っている。「誰か、これは訓練だと言ってくれ」
「閣下、そう言えればいいのですが。それらの写真は偵察衛星がこの15分間に撮影したものです。ニューヨーク市で核爆発があったようです。写真の画像からすると5~7キロトンの核出力と思われます」
長い休止のあと大統領は尋ねる。「誰の仕業だ?」「今の時点では未確認ですが、一つ二つ思い当たる先はあります」
明らかに最悪のシナリオになっているのであり、大統領はその瞬間声を発することができない。やっとのことで「それで今何をしているのだ?」と聞いた。
「核対応計画を発動させました。ヒト・モノのすべてを動員して対応しています。ここに第一報があります」
OEMがプルーム(汚染源から立ち上がる汚染物質)を発見する
8月29日木曜日 午後4時26分 ニューヨーク市ブルックリン、OEM本部監視司令部
核対応の第一ステップは緊急事態管理の項目の中でも中核となるものであり、OEMは年々その訓練を繰り返してきた。それゆえOEMのスタッフは緊急のアクション・メッセージの発信(これを第一ステップ:警告の発信という)を、最初は英語で、次いで複数の他言語で続けているが、第二ステップがさらに重要であることも心得ている。
プルームはどこだ? 火柱は爆風による残骸物を空中高く巻き上げている。その後の数時間、砂のような微粒子が高度の放射性落下物として空から降ってくる。落下物のプルームを予測して、その地域の人々に屋内に入るよう警告する必要がある。プルームの外、危険落下物ゾーン(DFZ)と呼ばれる地域の人も致死量の放射性にさらされる。
天気レーダーによれば北西から毎時8キロから16キロの持続的な風が吹いている。これに基づいて監視司令部は、プルームはマンハッタンからイーストリバーを横断してクイーンズの南とブルックリンの方へ移動していると予測した。電磁パルスは通信と通信システムの多くを遮断していたが、監視司令部はあらゆる手段を講じてプルームの警告をブルックリン、クイーンズ、ロングアイランドへ伝達する。さらにニュージャージー、コネチカットのOEMとオーバニーにあるニューヨーク州警告ポイント(コミュニケーション・警告センター)にもメッセージを送る。全米の緊急警報システム、通報NYC、NYアラート、NJアラートのような公共の警告システム、放送ボイスメール、Eメール、緊急テキストメッセージアラート、ツイッター、フェイスブックなどのSNSを通じて警報を鳴らす。
プルームの警告は、誰が避難すべきか、その避難の方向、ファーストレスポンダーの防護策、ファーストレスポンダーが安全に活動できる場所を指示する。
1時間以内にメッセージに地図を添付する。NYC NRP 082921#1というラベルの地図は知られていること、予測されたことのすべてを編集したものである。軽度のダメージ(LD)、中程度のダメージ(MD)、立入禁止ゾーン(NGZ)と定義された同心円で囲まれた爆発地点が示されている。数十キロ風下の人口密集地帯であるブルックリン、クイーンズ、ロングアイランドに広がるDFZも描かれている。NYC NRP 082921は1日のうち何回も更新され鳴らされる。それは遂に21世紀アメリカ史上もっとも重要な文書となる。
何年ものちテイナ・ギャラザは監視司令部における8月29日の行動を表彰されてアメリカにおける民間人最高の栄誉である議会名誉黄金勲章を授与されるだろう。ポラリス攻撃の歴史を書く科学者と歴史家たちは、テイナと、監視司令部、州警告ポイント、地方の情報機関とオペレーション・センター、FEMA監視センターのチームメンバーの行動がその日数十万人の命を救ったということに同意するだろう。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
おすすめ記事
-
-
-
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/11/25
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17
-







※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方