2014/03/25
誌面情報 vol42
街全体のレジリエント
京都大学防災研究所教授 牧紀男氏

津波で被災した地域の復興は、大きく高台移転か現地再建かに分けられる。どちらかの方法に完全に分けられるわけではなく、居住地だけを高台に移転し、既存市街地は防潮堤を高くして、盛土により土地のかさ上げを行って再建するなど複合的な方法がとられている場所もある。
ちなみに、昭和8年の三陸津波の際も、復興の方法は現在とほぼ同じだった。都市型集落については現地再建が行われ、農村型集落については高台移転が行われた。強いて言えば、現在との違いは技術力と財政力であった。昔は防潮堤といっても簡単に造ることはできず、岩手県田老町のように第二次世界大戦を挟んで完成するなど莫大な費用と時間がかかった。それでも多くの被災地が再建をしたが、今回の東日本大震災では、再び被災した集落も少なくなかった。
理由の1つは、当時の復興は、今のようにしっかりとしたシミュレーションに基づき高台移転の場所を決めたわけではなく、「既往津波遡上高」より高い、つまり「前よりも高いところ」という経験値に基づいてのみ移転地が決められていたことだ。例えば岩手県釜石市の両石地区は、昭和三陸津波後に高台移転しているにもかかわらず、今回の津波では壊滅的な被害にあった。想定した高さを上回る津波により街全体が飲み込まれた。
一方、移転地は十分な高さだったものの、その後に街が拡大したことで今回被災が大きくなったという地区も多い。山田町の田の浜地区は、昭和の移転地は無事だったが、戦後、戦争から引き上げてきた人たちが町に帰ってきて住むところがなく、結果、海岸に近い場所に住むようになり、その後、移転地に住んでいた人も利便性を求めて低地に住むようになり、今回やられてしまった。
ただし、中には、大船渡市の吉浜地区のように、復興の過程で国道が高い場所を通るようになり、それに伴い街の中心地が高台に移り、人々が低い地で暮らすことを食い止め、被災を免れた場所もある。

政府が進める計画
今回の震災を受け、政府は復興の基本方針として、数十年~百数十年に一度、発生が予想されるレベル1(L1)の津波を防げるような防潮堤を造ることを決定した。東日本大震災級のL2の津波は防潮堤だけでは防御できず、避難などソフト面で被害を防ぐ。
防潮堤の高さは、地域ごとに過去に発生した津波の高さを測定し、さらに想定高潮や想定宮城沖地震などで算出した津波の高さなども加え、過去に一定間隔で発生していると考えられる津波をグルーピングして、それらの最上位に耐えられるようにした上で、1メートルをプラスするというのが基本的な考え方になっている。多くの地域では今回の東日本大震災の津波が突出して高いため、それを除いた津波に耐えられるようにする。
加えて、こうして算出した防潮堤の高さに対して、今回の東日本大震災同等の津波シミュレーションを行い、堤防を越えてどこまで浸水するのかを算出し、浸水深2メートル以上の場所は居住禁止地域としている地区が多い。
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