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自動車を運転していて怖いのは、視界がきかなくなる時だ。対向車の跳ね上げた路面の水が不意にフロントガラスに降ってきて視野をふさがれ、一瞬パニックになりそうになった経験がある。

視界を妨げる気象現象の一つに霧がある。霧は前方を見えなくするだけでなく、自分がどこにいるかさえ見失わせるので、交通にとっては厄介な存在だ。

1998年12月1日の明け方、福島県会津若松市近くの磐越自動車道で、車両16台が巻き込まれる多重衝突事故が発生し、2人が死亡、30人が重軽傷を負った。当時、事故現場付近は霧に包まれており、これが事故を誘発したとみられている。今回は、交通障害を引き起こす霧、なかでも内陸の盆地に発生する霧を取り上げる。

霧発生のメカニズム

霧と聞いて何を連想するだろうか。幻想的でロマンチックな風景だろうか。陰うつで暗いイメージだろうか。

霧は大気中に浮遊する微水滴によって視程(見通せる距離)が低下する現象である。気象観測では、視程が1キロメートル未満の場合を霧、1キロメートル以上の場合をもやという。霧の中では湿度が100%に近いが、もやの場合の湿度は80~90%程度である。また、視程の低下をもたらす原因が水滴ではなく乾いた微粒子の場合は煙霧という。

空気中に含まれ得る水蒸気量には限度があり、いっぱいまで水蒸気の含まれた状態が湿度100%である。これを「飽和」という。図1の曲線は気温と飽和水蒸気量の関係を模式的に描いたもので、飽和水蒸気量は気温が高いほど大きい。曲線の右下方は未飽和の領域であり、左上方は過飽和の領域だ。

画像を拡大 図1. 飽和水蒸気量曲線の模式図

霧が発生するのは、地表近くの空気が水蒸気に関して飽和した状態となる時である。それが実現するためには、水蒸気量が増加するか、もしくは気温が下がる必要がある。

例えば、ある場所の気温と水蒸気量が図1のA点で示されるとしよう。そこの空気が、気温を保ったまま水蒸気の補給を受けるとする。すると、A点は図上で上方にシフトしていき、飽和水蒸気量曲線にぶつかって飽和する。これが、霧発生の第1のメカニズムである。

また、図1のA点で示される空気が、水蒸気量を保ったまま気温が下がるとする。すると、A点は図上で左方向にシフトしていき、飽和水蒸気量曲線にぶつかって飽和する。これが、霧発生の第2のメカニズムである。ちなみに、この場合に飽和した温度を「露点温度(または露点)」という。

霧の発生においては、この二つのメカニズムのいずれか一方、もしくは両方が関与する。