2018/01/29
安心、それが最大の敵だ
1.前兆現象等の把握における「つぶやき情報」の利用可能性
この研究では、SNSの中でも情報のリアルタイム性が高く、他ユーザーとの情報交換・共有が容易なツイッターを用いている。前兆現象等に関するキーワードにより収集するツイートが投稿された場所を推定し、その地域の土砂災害の切迫性の高まりを把握する手法を検討している。

近年の災害事例として、平成24年(2012)7月九州北部豪雨の事例(図-1)を見ると、ツイッター情報から、阿蘇地域で集中的に発生した土砂災害の前に、近隣地域の前兆現象(小規模崩壊)を把握できる可能性があることが分かる。

また、平成26年(2014)8月豪雨による広島市の災害事例(図-2)の分析等により、ある程度人口規模が大きい地域では、ソーシャルセンサ情報(ツイッター情報)による前兆現象等の把握は相当程度有効であることが分かった。また、災害に関連するツイッター情報を見ることで、住民がおかれた状況における心情・心理等、地域住民の切迫した状況をとらえることができ、避難勧告・指示等の判断に役立つ可能性があることが分かってきている。住民からの通報や消防団等の現地を確認した者からの報告と比べると、個々のツイッター情報の信頼性は劣るが、迅速性に優れたツイッター情報は、現場からの第一報を受ける前に豪雨時の地域の状況を把握することが出来る可能性があるため、有効と考えられる。
2.SNS情報を活用した災害情報収集システムの開発
ソーシャルセンサから得られた情報を警戒・避難システムに活用するため、ツイッター情報を用いた災害情報収集システムの試作版を開発し、実際に防災担当者に試用してもらった上でユーザーインターフェース等のあり方の検討を行った。システムは豪雨時に状況把握を行うことを想定し、地図上で降雨状況とツイート場所・内容を確認できるようにするとともに、リアルタイムにTwitter情報をタイムラインで閲覧できる構成としている(図-3)。

災害に関するツイッター情報には(1)気象や災害などの事象を直接表すもの(2)住民の不安感等の心情・心理を表すものがある。また、得られる本文、写真、GPSや推定されたツイート場所の情報により、情報の客観性、主観性が異なる。システムの試用により、防災対応の意思決定をする者を補佐する立場の者は、客観的な情報(現地状況を把握できる写真や本文、および場所情報)を重視して収集・報告している一方、意思決定者は、報告される客観的情報に加えて主観的な情報(住民の心情・心理等)も含めて意思決定を行っていることが推察され、情報収集システムは利用者層の役割やニーズに特化した機能・表示方法をとることが有効であることが分かった。
3.結論
土砂災害の被害軽減に向けて、現地の切迫した状況をツイッター情報から早期に把握し、警戒・避難に役立てるための国総研の果敢な取り組みについて紹介した。
平成23年(2011)東日本大震災でSNSが情報発信・共有・収集に活用されたことを機に、防災分野におけるSNS活用の取り組みが進められている。国土交通省においても、情報が不足しがちな災害対応初動時に災害の兆候や発生状況に関する推定情報を集約し、TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)派遣等の自治体支援などの判断に活用するための取り組みが行われようとしている。今後は、SNS情報を実際の防災対応において活用しつつ、効果的に活用するための技術的な検討が進められることで、警戒・避難システムの高度化の一助となることが期待されている。
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