五輪誘致でPRした安全性

こうした危機に、いかに備えればいいのか。2020年の東京五輪の開催が決まる前、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補申請ファイルに記載された内容には、IOCが求めるセキュリティ対策への備えに対し、どう回答したかが示されている。 

書類上では、「危機」という言葉は使われておらず、リスクとセキュリティという言葉で説明されている。IOCが要請したオリンピック開催地域に関連する「一般的」なリスクとは、◇火災(建物、産業施設、森林)、◇オリンピック施設、への侵入行為◇市民レベルの反対運動、◇犯罪、◇通信/技術的リスク、◇交通、◇自然災害(地震、洪水、火山、台風など)、◇その他の災害(化学、生物、原子力に関連する災害、飛行機墜落事故、地上での大事故など)、◇トンネル災害などを含む大規模な交通事故。申請ファイルからこれらセキュリティに対する関係当局による分析結果を抜粋して紹介する。

火災

防火体制については、用途や規模に応じた建物の構造、材料等に関する安全基準や警報設備、スプリンクラー等の設置基準が法令により厳格に定められており、火災によるリスクが少ない。消防署や消防車両なども配備しており、大会への火災リスクは「極めて低い」。

侵入行為
オリンピック関連施設への侵入行為については、「セキュアード・バイ・デザイン(デザインで守る安全)の原則を初期の設計段階」から取り入れて施設の脆弱性を軽減し、自然と構築物とを組み合わせた頑強な障壁を作り出すことで、効率的にアクセス制御や場内管理を強化できる。大会施設の警備は、高度な侵入警報装置、最新の画像解析技術を駆使した監視カメラの設置とともに、警視庁オリンピック警備本部(OSCC)で一元管理される。よって大会関連施設への侵入リスクも、「極めて低い」。

市民レベルの反対運動
市民レベルの反対運動については、日本では、一般に大衆運動は民主主義の重要な一部と認められており、東京都のデモは東京都公安委員会の許可制で平和的に行われており、大会に影響を及ぼすリスクは「極めて低い」。

犯罪
犯罪については、日本は諸外国と比べて犯罪発生率が極めて低く、さらに法令により銃器や薬物の所持を厳しく制限していることや、強固な組織力を誇る日本の警察活動が大きな役割を果たしていることから、大会に影響を及ぼすリスクは、「極めて低い」。

通信及び技術的リスク

通信及び技術的リスクは、世界最先端の情報技術を有しており、情報通信ネットワークの安全性及び信頼性も高く、政府が2005年に内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)を設置し、官民における統一的、横断的な情報セキュリティ対策を推進。また、政府が重要インフラ(情報通信、航空、鉄道、電力、水道、物流など)の保護に対して包括的な施策を講じていることもあり、通信および技術的リスクは、「極めて低い」。

交通

交通については、最新の高度交通管制システム(ITCS)による信号制御の最適化、リアルタイムな交通情報等により道路交通の処理能力が高い。国および関係団体が、首都圏で3つの環状道路建設を進めており、2020年にはその約9割が完成予定で、都市部に流入する通過車両の減少が予想される。大会期間中には、オリンピックレーン等の設定を含むオリンピック輸送システムを構築し、大会関係者の迅速かつ安全な輸送を行う。交通渋滞が大会運営に影響を与えるリスクは「低い」。

台風・洪水
台風・洪水に対しては、東京では、過去50年間、大規模な洪水被害等は発生しておらず、台風や洪水による大会の中断リスクは、「極めて低い」。

自然災害
地震に対しては、優れた耐震技術を有しており、マグニチュード9を記録した2011年3月の東日本大震災でもその真価を発揮し、東京では家屋の損壊がごくわずかで済んだ。津波に対しては、東京湾は2つの半島に囲まれた閉鎖型の海域で、津波の影響を受けにくい地形で、過去300年にわたって東京湾岸での津波被害は確認されておらず、防潮堤や水門など大規模な対策も講じられている。地震や津波による大会の中断リスクは「低い」。

NBC災害

核:Nuclear、生物:Biological、化学物質:Chemicalを使った特殊災害

東日本大震災による津波の影響で福島第一原子力発電所の事故が発生したが、日本国政府の適切な対応により、事態は収束に向かっている。原子力発電所の事故を受け、日本国政府は、日本全国の原子力発電所を対象にストレステストを順次実施して安全性を再点検している。その結果を検証し、効果的な対策を実施することで、さらなる安全性が確保される。また、警視庁、東京消防庁及び海上保安庁が専門部隊を編成して、自衛隊のNBC部隊とともに災害管理能力を強化し、複数の機関による予行演習など実践的な訓練が実施されている。大会へのNBC災害リスクは、「極めて低い」。

その他(航空機、交通事故、鉄道事故)
その他の災害で、航空機事故や、大規模な交通事故・トンネル事故、そして鉄道事故についても、リスクは、「極めて低い」。

整理すると、大会へ与える影響が「極めて低いリスク」が、火災、オリンピック施設への侵入行為、市民レベルの反対運動、犯罪、通信及び技術的リスク、自然災害(台風・洪水)、NBC災害、航空機事故、大規模な交通事故(トンネル事故含む)、大規模な鉄道事故。「低いリスク」が交通、自然災害(地震・津波)となる。