2016/05/04
誌面情報 vol53
都市機能が完全に麻痺する
富士山の300年前の宝永噴火が今起こるとどうなるか。宝永噴火のときの降り積もった火山灰の厚さを今の地図の上に載せると、神奈川県をはじめ東京や千葉の一部でも8㎝もの火山灰が積ることがわかります。横浜は16㎝です。灰といっても石の粉、石の粒です。新幹線の小田原-横浜間では20㎝以上の火山灰の中にレールが埋もれてしまうことになります。東名高速の御殿場あたりは1m以上の小石に埋もれてしまう。
中央高速は安全だと思われるかもしれませんが、たまたま富士山の南東に火口が開いたことを想定しているからで、もし貞観の噴火のように北西側で開いた時にはかなりの影響が出ますし、東京都の都心も被害が激しくなります。成田空港や羽田空港も、10㎝程度の積灰になりますし、厚木基地も火山灰が降り積もり、航空機や救援機は使えないことになります。首都圏に及ぼす影響は、ほかにもいろんなことが考えられます。まず道路が全部使えなくなるでしょう。恐らく交通はほとんど麻痺します。鉄道も無理です。数㎜の火山灰でも止まらざるをえない。溶けませんから、取り除くしかありません。停電も考えられます。電線に火山灰が付くと、火山灰は石の粉ですから重いので電線が垂れ下がって切れてしまう事故がアイスランドやニュージーランドでは何回も起きています。
さらに、都心の電力は湾岸部の火力発電所で賄われているわけですが、火力発電所が集中しているのは、1番火山灰が厚く溜まる地区です。フィルターがついているから大丈夫かもしれませんが、細かい火山灰が舞うとフィルターはすぐに目詰まりを起こしてしましますから、パワーダウンします。フィルターを交換しようとして発注しようにも交通網が機能していないので、そのうち停電になる。首都圏は流通系で破綻し、日本中のサプライチェーンがすべて寸断される。さらに、火山灰が降り積もると、雨により土石流が起こります。江戸時代に土石流災害が起きた場所を見ると、火山灰が10㎝以上降り積もったところだったことがわかります。当然、河川へ流れ込むことも考えられます。
日本の火山監視体制の問題点
火山噴火予知自体がまだ発展途上の学問ですので、そう簡単に予知はできません。1つの理由は、我々の寿命が100年ぐらいでも、敵(火山)は100万年あるわけです。そして、我々は、わずか100年間しか観測をしていないわけです。
一方で、日本の火山監視体制は異常な事態にあります。多機関が共同して行っているといえば、聞こえはいいのですが、ヘッドクォーターもない多機関の集合体になってしまっています。予算請求にしても各省庁からバラバラに独立にやられているわけです。地震の場合は地震本部が存在していて、これは文科省に事務局があって、一応取りまとめ機能はありますが、火山観測にはありません。このようなことは日本だけで、アメリカやイタリアなどの先進国で火山がある国、あるいは発展途上国でもインドネシアやフィリピンでは一元的な地震火山庁のようなものを持っています。火山噴火予知が難しくても、まずはしっかりと体制を整えることを進めていくべきです。
(12月11日、日本保険仲立協会研修会の講演をもとに取材)
藤井敏嗣(ふじい・としつぐ)
環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所所長、火山噴火予知連絡会会長、山梨県富士山科学研究所所長、東京大学名誉教授。東大大学院理学系研究科地質学専攻博士課程修了後、東京大学理学部地質学教室助手を経て、東京大学地震研究所助教授、同教授。東京大学地震研究所長および東京大学理事・副学長を歴任し、現職。
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