2016/07/26
誌面情報 vol53
課題を解決し、さらにレジリエンスな企業を目指して
同社は2015年4月に日本国内の生命保険業界で初となる事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格である「ISO22301」を取得。今回の大規模訓練により、ISO22301を活用したBCMSのさらなる成熟を狙いたい考えだ。しかしまだ札幌本社立ち上げから1年しか経っておらず、課題も多い。
最も大きな課題の1つは、東京から札幌に要員を派遣するための交通手段だ。同社では現在、7つの経路を検討しているというが、首都圏で広域災害が発生した場合、羽田空港が利用できなくなる可能性が高い。また、羽田空港は全ての国内線のハブ空港となっているため、羽田空港の機能が停止すると国内線の全ての運行が麻痺する恐れがある。それでも仙台空港–千歳空港はまだ影響が少ないと考えられるため、今井氏は「なんとか仙台までたどり着けば北海道に行ける可能性が高い」とする。来年開通予定の函館新幹線も、大きな可能性の1つだ。交通手段に関しては、災害時にどのような状況になるか予想することは難しい。あらゆる可能性を考慮しながら、1つでも多くの可能性を探る努力が必要だろう。
もう1つの大きな課題として、経営メンバーを本当に札幌に退避させるかどうかも挙がった。首都圏が壊滅的な状況になった場合、経営メンバーは首都圏にとどまる必要があるのではないかとの議論もある。首都圏には多くの顧客がおり経営メンバーは被災地の状況を的確に把握しながら顧客などへの支援にあたる必要があるのではないかとの意見だ。もちろん、心情的にも被災地を離れてしまうことに抵抗があるだろう。札幌拠点を設立したことで、事業継続について一定のメドが立っているのであれば、例えば東京本社が使えなくなっても神奈川県や埼玉県、東京西部など近隣の比較的被害の少ない地域の事業所に災害対策本部を作ることで、被災地の顧客支援に当たることができる。恐らく、経営メンバーはある程度被災地に近い場所にいた方が重要な決断をしやすくなるだろう。この点は今後のBCMSの重要な課題となった。
オリンピックを見据えて

現在の同社のBCMSは、まだ広域災害対応に偏っているとも言える。世界中でテロリストによる銃撃事件が多発しており、日本でもオリンピックを控えて国内でのテロの脅威にも留意が必要である。
今井氏は「日本国内でテロが発生するようになるのはもう少し先だと思っていたが、昨今の情勢を見るとそれでは遅いと感じるようになった。災害対応が一段落つけば、テロ対策にも乗り出したい。しかし、テロも広域災害も本来であれば危機管理として8割の手順は同じはず。さまざまな訓練を重ねることで、どのような危機が訪れても対応できるような会社にしていきたい」と話している。
(了)
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