2021/10/12
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
テレワーク下での労働安全衛生
このような状況下で労働安全衛生に関する問題提起を行っているのが図2である。これは在宅勤務者に対する安全衛生基準の適用状況を尋ねた結果で、28.9%が「改善の余地はあるが在宅勤務者にも同じ安全衛生基準を適用している」、19.0%が「完全にオフィス勤務と同じ基準を適用している」と答えている一方で、27.1%が「適用する計画がない」と答えており、企業によって取り組み方に偏りがある様子がうかがえる。
これに関連してメンタルヘルスに関する調査も行われている。在宅勤務環境におけるメンタルヘルスに対する関心が高まっていることは、過去のBCIの調査報告書からも分かるが(注5)、今回の調査では事業継続計画においてメンタルヘルスや従業員の福利(well-being)が考慮されているかを尋ねる設問が追加されている。図3はその結果であり、21.8%が既に考慮されている、28.2%がパンデミックの期間中に考慮し始めたと回答している。
なお、29.6%がまだ計画していないと回答しているが、この点に関して本報告書では、「組織全体としては考慮されているがBCPの範疇(はんちゅう)ではない」という企業が含まれている可能性があると指摘されている。
在宅勤務に関するメンタルヘルスの問題を事業継続のBCPの範疇で扱うことに関しては、議論の余地があると思われるが、安全衛生やメンタルヘルスに関する課題に取り組むことが組織のレジリエンスに不可欠であることについては論をまたないであろう。したがってBCMの専門家もしくは実務者としては、BCPの範疇に含むかどうかは別として、安全衛生やメンタルヘルスに関する知識や情報にもアンテナを張り、これらの分野の関係者とネットワークを築いて協働していく必要があるということである。
本稿では昨年版の記事で触れなかった部分を中心に紹介したが、報告書の構成は昨年版と共通となっており、昨年版との間で変化を比較できるデータも多数含まれている。今後、パンデミック収束後の事業継続や企業経営を考えていく上で多くの示唆を与えてくれる報告書である。
注1)BCIとはThe Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000人以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/
注2)第117回:パンデミック後に事業継続マネジャーは何をすべきか
BCI / The Future of Business Continuity and Resilience
https://www.risktaisaku.com/articles/-/39117(2020年9月15日掲載)
注3)「事業継続マネジャー」(BC Manager)は組織の事業継続に関する活動を主導する立場にある人を指しており、実際の役職はBCM担当部門の長から経営層まで、組織によってさまざまであろう。
注4)BCIが編集・公開している、BCMの実務者向けのガイドラインで、BCMに関するガイドラインとしては世界で最も広く用いられているものの一つ。2001年に初版が発行されて以降、数年おきに改定を重ねられており、現在の最新版は2018年版である。BCIのウェブサイト(https://www.thebci.org/training-qualifications/good-practice-guidelines.html)から入手できる。
注5)例えば下記の記事で在宅勤務中のメンタルヘルスに関連した調査結果を紹介している。
第97回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【第3報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 3rd Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/29855(2020年4月21日掲載)
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/15
-
-
-
-
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
-
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/09/07
-
-
-
暗黙知を形式知へ、10年の徹底改善が生きた
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイトで被害受付を開始した。
2026/08/24





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方