2018/06/22
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
2016年の熊本地震でもブロック塀の犠牲者が
私たちは、なぜ、この事故を避けることができなかったのでしょう。1978(昭和53)年の宮城沖地震からの教訓ということは今回、たくさん報道されました。もちろんそうです。でも、2016年の年熊本地震で29歳の坂本龍也さんの命を奪ったのが、まさしくこの擁壁の上にあるブロック塀だったのです。
擁壁の高さは2mで、その上にあったブロック塀が2.15mでした。それだけでなく、支えとなる控え壁がないことまで同じです。1978年のことを継承していなくても、2016年の教訓はたった2年前のことです。なぜ教訓が継承されないのでしょう?もっとわかりやすく伝えねばならなかったと本当に悲しく思っています。
今回の事故で、一刻も早く違法なブロック塀の撤去が進むことを願っています。ところが、実は、古いブロック塀ほど違法ではなくなってしまうという困った問題があります。
1978年の宮城沖地震でブロック塀の倒壊により18人が死亡。その教訓を受けて1981年に建築基準法が改正され、塀の高さの上限は3mから現在の2.2mに引き下げたほか、強度を補うために高さ1.2メートルを超える塀には、「控え壁(ひかえかべ)」と呼ばれる壁の設置条件を厳しくするなど、耐震を強化しました。
高槻市で倒れたブロック塀は、基礎部分は1973(昭和49)年に設置が確認されています。その上に積んだブロック塀について、市側は「時期は不明」としながらも、改正建築基準法以降に設置された可能性が高く、また「控え壁(ひかえかべ)」も設置されていなかったことから建築基準法違反を認めています。
しかし、この法律改正以前に作られたブロック塀は、設置当時は適法だったので、いわゆる「既存不適格(きそんふてきかく)」という状態となり、法的に規制できないのです。
建築基準法は原則として着工時の法律に適合することを要求しているため、着工後に法令の改正など、新たな規制ができた際に生じるものである。そのまま使用していてもただちに違法というわけではないが、増築や建替え等を行う際には、法令に適合するよう建築しなければならない(原則)。
当初から法令に違反して建築された違法建築や欠陥住宅とは区別する必要がある。(出典:Wikipedia)
塀の耐用年数はおよそ30年と言われていますが、もっと古いのではないかと思われる明らかに危ない既存不適格のブロック塀は、どんなに地震で倒れやすくても違法建築にはならないのです。これでいいのでしょうか?
今後、地震が頻発する可能性を考えると、設置当時は合法なので違法とならない塀も、立法による撤去を真剣に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか?

過去記事に詳しく書きましたが、既存不適格のブロック塀の見分け方は以下です。
透かしのあるブロック塀、石垣の上のブロック塀は、いずれも鉄筋の数が足りなかったり、入れられない構造で倒壊の可能性が高いです。すでに亀裂や傾きがあるブロック塀など、危険なブロック塀です。ブロック塀で土どめするのも危険です。

色が黒ずんでいて風化していれば、危険なブロック塀の可能性が高いので、誰でも見分けられます。違法建築ですと地震で倒壊した場合、損害賠償請求された時に敗訴する可能性が高いです。高槻市のブロック塀倒壊は違法であったため、業務上過失致死という刑法上の捜査も始まっています。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方