2018/06/22
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
万年塀は「その他の組積造」?
すると、組積造の中に何が含まれるかいろいろ議論があることがわかりました。そして、いわゆる万年塀は建築基準法の「その他の組積造」に含まれる可能性があるとのことでした。
可能性があるということは、残念なことに、可能性がない場合も想定されています。万年塀というのは「組積造に当然含まれます」というすっきり明瞭な物体ではないのです。
では、万年塀が組積造に含まれるケースとはどんな場合なのでしょうか?同省によると、最終的な判断はすべて行政判断となり、すなわち地方公共団体の判断となるとのことです。もともと建築基準法自体、すべて地方公共団体が建築確認するものとなっているのです。
ということで、結果として万年塀を建築基準法の対象と見なすか否かも地方公共団体の判断となっており、一定の大きな建物の周辺にあるようなものは定期的に調査対象とすることが多いものの、住宅周辺の万年塀に関してはおそらくそのようなことはないだろうというのが国土交通省住宅局建築指導課の見解でした。
違法であれば、撤去も求めやすいし、損害賠償も請求しやすいですが、基準がそもそも不明瞭な物体だったなんて・・・。崩れそうな古い万年塀を見つけたとしても、「点検してください」とも言えないってことになりますよね。
地震から命を守る、人災による被害は避けることを重視すると、コンクリートブロック塀以外の崩れそうな塀たちについても法の規制を及ぼすべきように感じますが、どうなのでしょうか?
さらに、地震が頻発する昨今、もう一歩考えておかねばならないことがあります。適法であれば、倒壊しないの?という問題です。
業界団体は阪神淡路大震災と同等の揺れの実験を2016年に実施し、適切に施行された塀については倒壊しなかったという実証実験を行っています。きちんと実証実験してくれると心強いですね!
■地震の時、ブロック塀は? (社団法人全国建築コンクリートブロック工業会)
http://www.jcba-jp.com/daijiten/c04/index.html
ところで気象庁の震度階級関連解説表には
震度
5強 補強されていないブロック塀が崩れることがある
6強 補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる
7 補強されているブロック塀も破損するものがある
との記載になっていて、補強されているブロック塀も破損するものがあるとしています。倒壊ではなく、破損という記載です。
気象庁の根拠については記載がないのでわかりませんが、施工不良、地盤が想定外、また、震度7といっても阪神・淡路大震災のような活断層の揺れもあれば、南海トラフや東日本大震災のように長周期地震動の揺れは異なるからかもしれません。
また、これはブロック塀とその他の塀だけの問題ではないのですが、熊本地震の知見では、建築基準法の最も新しい基準である2000年基準を満たした建物でも、大きな被害があったことが問題になりました。1度目の地震でダメージを受けたあとに、さらにすぐダメージを受けることまで想定されているわけではありませんでした。建築基準法は最低限の基準でしかなく、絶対倒壊しないことを保証するものではありません。
実際、震度7の地震が2度襲った熊本県益城町では、補強された控え壁のあるブロック塀が倒れているものもありました。施工に問題があったのかもしれませんが、震度7が2回起こったに事によるのかもわかりません。

地震大国で、震度7が2度も続けて起こったのです。倒れれば人の命を奪う可能性のある重たい塀を設置する意義を、今一度しっかり考え、長周期地震動や震度7が2回起こっても大丈夫かどうかきちんと検証していきたいですね♩
そこで、設置する意義ですが、ブロック塀の利点として台風などの風水害に強いと言われています。隣家への延焼を防ぐ効果もあります。では、防犯についてはどうでしょうか?塀が老朽化しているけど、防犯上撤去が不安だから撤去できないという声もお聞きしました。国土交通省が防犯まちづくりの推進としてこんな記載をしていることをご存知でしょうか?
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方