地元企業・病院の協力で要援護者の水平避難

写真を拡大  人がショッピングカートに入ったところ

要援護者をどのように水平避難させるかも、地区にとって大きな課題だった。車や台車などを借りて試してみたが、なかなかうまくいかない。中谷氏と当時の消防署長が地元のアグロガーデンというホームセンターに何かいいものがないか探してみたところ、客が商品を運ぶ大きなショッピングカートが目に入った。通常の台車などで人を運ぼうとすると立って乗らなければいけないため、要援護者はバランスがとりにくい。しかし、ショッピングカートをよく見ると、収納時に場所をとらないように、手前側の一方が開閉し、ほかのカートと連結可能な構造になっており、介護者は要援護者を引き上げることで、カートの中に座らせることができる。対面型になるため、要援護者は安心できるというメリットもある。

アグロガーデン駒ヶ林支店長の伊藤雄康氏

これならいけると考えた中谷氏は同店店長の伊藤雄康氏に交渉したところ、すぐに快諾を得られた。「もともと、アグロガーデン神戸駒ヶ林支店は、長田区の震災復興の思いから、社長が震災後に建てたもの。地区のお役に立てるなら、できる限りのことをしたい」と伊藤氏は話す。

震災や津波が発生した時には、店側もパニックに陥っている可能性もあるので、外に保管しているカートは店の許可を得なくても使っていいことにした。カートは大型200台、中型300台を常備。中型でも、子どもや小柄な女性なら問題なく運べるという。

地域の病院からストレッチャーを貸し出し 

震災時に同地区内にあった野瀬病院は、震災時にはストレッチャーを地域に3台貸し出すことを約束している。阪神・淡路大震災で被災した野瀬病院は、入院患者全員を真陽小学校に避難させた経験を持つため、現在は病院のベッドをすべて滑車付にしている。電動ベッドは滑車が付いていても重いものが多いのだが、野瀬病院は職員1人でも移動ができる軽量化した電動ベッドに全て入れ替えたため、災害時にストレッチャー3台は不要と判断したのだ。そのほか、車いす10台の貸し出しと、避難所には看護師2人とセラピスト2人を派遣する予定だ。同病院事務長の林政徳氏は「地域の人から『野瀬病院に行ったら何とかなる」と思われる存在になりたい』と話す。

野瀬病院事務長の林政徳氏(左)とスタッフの皆さん

野瀬病院は震災後、地域の人口が3分の1に減ったため経営が危ぶまれる事態にも陥った。それでも地域と共生しながら取り組んできた結果、現在は震災前の6倍の患者数を確保するまでに至っている。昨年8月には、真陽地区に隣接する通りに新築移転し、今年3月には病床の増床工事も完成する。各階ともベランダを四方に張り巡らせた設計は、火災時の避難などにも効果的だという。林氏は「我々は自らが被災した病院。これからも地域と共に日本一安心安全な病院を目指していきたい」と話している。

軽量化された電動ベッドは職員1人で動かせる