2018/07/17
安心、それが最大の敵だ
<震災・公共事業追い風>
大手4社が、談合決別宣言を行ったのは制裁を強化する改正独禁法の施行前の2005年12月のことだ。だが、実際には談合との決別は困難だった。決別宣言後、ゼネコン業界は工事の入札で低価格競争に入り、公共事業費の削減も加わり苦境に陥った。
それを一変させたのが2011年の東日本大震災の復旧・復興工事だった。複数の大手ゼネコン幹部が、復興を急ぐために官民ともに「談合やむなし」の意識が再び生まれた、と明かす。
2012年12月に誕生した安倍政権が、積極的な公共事業などの経済政策「アベノミクス」を推進し、2013年度以降に公共事業費が増加したことも「追い風」となった。
2020年の東京五輪に向け、首都圏の再開発やインフラ整備が活発化。ゼネコン大手4社の2017年3月期決算では各社が1000億円前後の純利益を挙げた。過去最高を更新した。2020年以降も東京都内の主要駅周辺での再開発工事などが予想されるという。
準大手各社の幹部は、1000億円超の大型工事を請け負うだけの技術力、資金力を持つゼネコンとなると、大手4社が中心とならざるを得ない、と指摘する。
官民ともに発注者側には「大手に工事を任せれば安心」との意識が強い。大規模な震災復興工事を請け負う大手ゼネコン幹部は「役所に頼まれてやっている」と述べた。この環境下で、ゼネコン業界ぐるみの以前の談合組織とは違い、発注者との親密な関係をもとに大手4社だけで受注調整する新たな談合が生まれることになった。
<抑止へ 罰則強化がカギ>
リニア事件は新たな談合の「氷山の一角」である疑いも浮かんでいる。建設中の東京外郭環状道路(外環道)の工事をめぐり、発注者の東日本、中日本の各高速道路が昨年数千億円規模と見られる都内の地下トンネル拡幅工事で「談合などの疑いを払拭できない」として大手4社との契約手続きを中止した。外環道の主要工事では2010年ごろから、入札で価格に技術評価も加え、各社と事前協議もできる方式を採用した。これに関与した東日本高速道路の元幹部は「技術力がいる大規模工事に最適な大手ゼネコンと協力態勢を築く狙いがあった」と証言する。
談合は、納税者や利用者が負担する工事費を高止まりさせるうえ、落札業者に指名してもらうための発注者への賄賂提供につながるなど不正の温床となる。談合との決別は、こうした批判を受けたものだった。発注者は、大手ゼネコンとの親密な関係が談合を助長しないよう、入札が適正に行われる方策を徹底する必要がある。
ゼネコン側も同様だ。リニア事件で談合を認めた大林組は1月、社長らの辞任発表と共に「法令順守の強化」を表明した。だが談合問題に詳しい某大学教授は「企業に倫理を求めるだけでは解決が難しい」とし「欧米並みに巨額の罰金をとったり、談合の刑事被告人にこれまでなかった実刑判決を出したりする処罰の強化をしないと真に抑止効果は出ないのではないか」と指摘する。
謝辞:「朝日新聞」の優れた記事(調査報道)から引用させていただいた。感謝したい。同社の健闘を祈念したい。
(つづく)
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