2023/02/22
ニュープロダクツ

イーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースXが開発した「Starlink」のBCPや災害対策における期待が高まっている。携帯キャリアのauを中心とする電気通信事業を行っているKDDIでは、スペースXと共同で技術検証を実施。2022年12月から法人・自治体向けに「Starlink BUSINESS」の提供を開始した。被災地など、インターネット通信が途絶した地域でも安定した回線を提供できることから、新たな通信手段として注目されている。
Starlinkは、スペースXが開発した衛星ブロードバンド回線。従来の衛星通信サービスでは、1基の静止衛星を使っていたため、データが往復するのに時間がかかって通信速度が遅延することが避けられなかった。しかしStarlinkは数千機の通信衛星とStarlink端末をつなぐ「コンステレーション」という仕組みのため、どこにいても、速い速度での通信が可能となる。仕様上、Starlink端末の通信速度は最大220 Mbps。KDDIによると、これまでのさまざまな実証実験においても、インターネットがつながりにくい地域であっても、安定して150Mbps程度の速度を計測しているという。
従来のサービスであれば、山間部など電波が入りにくい地域でオンラインミーティングなどを行った場合、ワンテンポずれて映像や音声が届くため会話がしずらいといったことも頻発していたが、Starlinkであれば、常にリアルタイムでスムーズな会話が可能となりそうだ。
山間部などの工事でも通信が可能に
もう一つの大きな特長が、光ファイバーを引き込めないような場所でも簡単に通信環境が作れること。トンネル工事やダム工事などの工事では、人がほとんど住んでいない場所が現場になる。こうした人がほとんどいないこのような環境では、光通信の基地局などもないため、インターネット通信ができない。しかしStarlinkなら、Starlink端末と簡易電源さえあれば、即座にインターネット通信を開始することができる。

KDDIでは、Starlinkをau基地局のバックホール回線として利用する「Satellite Mobile Link」と、法人・自治体向けの「Starlink BUSINESS」プランの2種類を提供している。
「Satellite Mobile Link」は、au基地局を経由して、Starlinkとパソコンや携帯電話などの端末をつなぐ。一方の、「Starlink BUSINESS」は、Starlink端末を経由して、Starlinkとパソコンや携帯電話などの機器を接続する仕組みになる。法人・自治体向けに、2022年12月に提供を開始した。au基地局を介さずに通信できるのが特徴で、Starlink端末からデバイスまではWi-Fiや有線LANを使用する。基本的に半径50m程度の範囲で通信が可能となっており、市販のWi-Fiや有線LANを使用すれば、複数台の端末を接続することができる。

StarlinkBUSINESSのコストは、Starlink端末が約40万円、月々の使用料が月額約8万円(端末を一定箇所に固定して利用する場合)、または約16万円(持ち運びが可能なプラン)となっている。このほか、故障時の修理・交換などのサポートに対して一定の料金が発生する。
Starlink端末は7㎏ほどの重さのアンテナタイプとなっており、一定の場所に固定して使用することもでき、車などに搭載して持ち運び、通信したい場所に置いて使用することもできる。内部にはヒーターがついているため、天候によって利用が制限されることはないという。
BCP対応や地震などの自然災害への備えとして活用したいというニーズも多く、2023年2月時点で500件以上の問い合わせが寄せられているという。
防災・危機管理関連の新製品ニュースリリースは以下のメールアドレスにお送りください。risk-t@shinkenpress.co.jp
リスク対策.com 編集部
ニュープロダクツの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方