耐震性確保にあたっての注意点 
耐震診断については、耐震診断の依頼先は、国民生活センターや各地の消費生活センターへの相談事例が多発している現状を踏まえると、信頼できる事業者に依頼することが重要である 。一般財団法人日本建築防災協会は、国土交通大臣が指定する耐震改修支援センターであり、相談窓口などをホームページ上公開しているので、見積もり依頼にあたっての参考になる。

高額な費用についても、近年は、助成金や補助金、固定資産税の優遇など行政からの支援も充実している。保有する物件が所在する市区町村のまちづくり担当部署に相談することもあわせて勧める。

耐震性確保に加えて 
耐震性確保に加えて、オーナーが平時から取り組んでおきたい項目が3つある。

①設計図書などの保管
建築確認申請書、検査済証、設計図書の3つは、賃貸不動産物件の状況を確実に把握するうえで重要な文書であるが、我々がリスク調査に入る際にも、これらの文書が所在不明になっている事例が少なくない。不動産投資を始める際、マンションの一室を購入するところから始める方がおられるが、この場合でも建屋全体の設計図書などが確実に保管されていることを確認することをお勧めする。

②管理委託契約書の締結・更新・保管 
多くの場合、オーナーは賃貸不動産管理業者との間で委託契約を締結しているが、契約書の作成や更新が行われていない事例が散見される。トラブルになった場合、最終的には契約書上の記述により様々な判断をせざるを得ない以上、この契約書の作成と更新は確実に行わなければならない。

③物件ごとの役割分担の確認 
通常、住人の安否確認と物件の被害状況の確認などは賃貸不動産管理業の事業継続計画の中で優先業務に含まれていることが多いが、物件の委託契約の内容によっては、オーナーが自ら取り組まなければならない場合があり得る。 

特に、委託費節減のため、清掃を自分で行ったり、管理会社を通さず直接発注したり、あるいは、設備の保守点検を専門業者に直接発注するといった取り組みを行っているオーナーは、平時の費用負担を減らす代わりに、緊急時においても自分で対策を行わなければならない責任を負っていることに留意する必要がある。 

オーナーが賃借人の安否確認に取り組む必要がある物件では、賃借人の連絡先を複数確保し、かつそれらの情報を停電などの悪条件下でも速やかに取り出せる環境に保管しなければならない。

物件が滅失したかどうかはその後の事業再建に大きく影響 
前回も取り上げたが、最高裁の判例によれば、何らかの事象により賃貸借契約の目的物が滅失し、その効用を失った場合、賃貸借契約の趣旨はもはや達成できなくなるため、当該契約は当然終了するとされている。損壊の程度が著しく、建物としての効用を失っていると判断される場合は滅失となる。オーナーとしては、速やかに建屋の再建に取り組むことが可能になる。 

ところで、滅失には至らないとしても、建物の損壊程度が大きく、大規模な修繕が必要になる場合、建物の損傷程度、修繕費用、建物の耐用年数や老朽度、家賃の額などの事情によっては、オーナーが賃貸借契約の解除を求める正当事由となることがあるとされている。

オーナーとして納得がいかないという声が上がるのは、正当事由となるかどうかを判断するための事情に「オーナーが立ち退き費用を賃借人に支払うか」が含まれることである。 

通常の社会環境では、賃料の6~12カ月が立ち退き料相場とされている。震災のような緊急事態において、ただでも修理その他の費用が発生し、賃料収入が途絶しているところに、立ち退き料まで負担しなければならないのかとオーナーの不満の声はよく聞かれるところだが、特に住居の場合は、借地借家法により賃借人の権利は厳格に保護されており、迅速な再建をオーナーが望むのであれば、一定やむをえないところと考えられる。

終わりに 
地震が発生した場合、不動産価値は数割下がることも十分にあり得る。加えて、賃借人の被災や賃借人からの賃料減額請求などの減収要因、物件の修理など賃貸人が負担しなければならない費用などが生じる。災害が発生した場合は、政府系金融機関の融資や都道府県信用保証協会の融資保証枠の拡大などさまざまな取り組みが政府や自治体から打ち出されているが、それまで持ちこたえるためにも、手元資金をしっかり確保しておくことが賃貸不動産オーナーとしての心得である。

また、阪神・淡路大震災や東日本大震災における賃貸不動産に関するトラブル事例集を見ると、オーナー側の知識不足が原因となっていると思われる事例が多い。今回取り上げた建物の瑕疵による工作物責任はその最も深刻な事例であるが、その他敷金の取り扱い、賃貸借解除の手順などオーナー側である程度の知識があれば、回避できたようなトラブルを自ら引き起こしている事例が散見される。不動産経営を継続するためには、オーナー側も日々の勉強が必要なことを痛感する。