2019/02/01
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
母乳を出やすくするために
とはいえ、いくら母乳に菌を殺す成分が入っているとはいえ、災害時ストレスで止まるのでは?だから母乳の人もミルクを備蓄しないといけないのでは?そう思われる方は、WHOやユニセフが説明している母乳分泌の仕組みを理解していただければと思います。
ストレスを受けても、母乳を作り出すホルモンであるプロラクチンは影響を受けません。母乳は作り出され、止まってはいないのです。でも、オキシトシンというホルモンは、ストレスで一時的に影響を受けます。これは母乳を外に押し出すホルモンです。なぜ、ストレスでオキシトシンの分泌が減るのか、それは、このように説明されます。野生動物に襲われた時代に、母乳の匂いがすることで襲われる可能性が高まるため、母乳を押し出すことを一時的にストップし、逃げることを優先させた。でも、安心した場所にいって、赤ちゃんがおっぱいを吸うことで、このホルモンが刺激されるので、母乳育児は再開できるようになるという説明です。確かに、ストレスのたびに完全に母乳が止まっていたのであれば、哺乳類は滅びていてもおかしくないかもと思います。なぜストレスで押し出しにくくなるのかということに対して、この理由は説得的です。そのため災害時、母子にとって大切なことは、安心して授乳できる場を確保することになります。
そうは言っても一時的でも母乳を押し出す機能が弱まると、赤ちゃんはぐずりだす可能性があります。その時、母親はとても不安になります。母乳がストレスで足りないのではないかと思いがちです。こんな時にミルクをあげたらいいのではと提案されると、すぐにでもあげたくなりますね。でも、赤ちゃんはいつもと違う雰囲気に不安を感じて泣いているのかもしれません。吸い始めてから母乳が出てくるまでにいつもより少し時間がかかるだけかもしれません。そうであるのに、不安になってミルクをあげると、もうひとつの作用が働く可能性があります。それは、赤ちゃんが母乳以外のものを飲むことで吸う回数が減って乳房に母乳が残ると、体は、もう母乳をつくらなくていいと判断するので、母乳を減らす指令を出します。つまり、ストレスで母乳は完全には止まらないけれど、ミルクをあげると母乳の産生が止まっていく可能性があるのです。
そのため、災害時の乳幼児栄養救援活動の国際ガイドラインでは、母乳がストレスで一時的に押し出しにくくなるからといって、真逆の結論である母乳を止めてしまう可能性がある、母乳の人もミルクを備蓄しましょうということは絶対に勧めません。
ちなみにアメリカの保健福祉省はこのような資料を作成しています。ちょっと意外に思ってしまって申し訳なかったのですが、アメリカは母乳育児推進の国なんだそうです。
どうして災害時母乳育児継続が重要なのか。
・短時間でも授乳中断すると(母子の心身に)悪影響
・災害時に汚染された水の使用リスクから乳児を守る
・避難家族にとって命とりになる呼吸器疾患や下痢にかかりにくくなる
・母乳はいつでも飲ませられ、ほかの器具が不用
と書かれています。
どうしたら援助できるかについては、
・母乳に詳しい医療専門家にかかりやすいようにする
・妊娠中、授乳中の女性が安心してすごせる場をつくる
そして、
母乳で乳児に十分に栄養がいくと母親に伝え安心させる
とあるのです。「母親に伝え安心させる」という部分、一時的に母乳を押し出せなくなるからと言ってミルクの備蓄を勧める記述と母親のつらい気持ちに寄り添う姿勢が随分違うように思うのですがいかがでしょうか?
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