2017/03/10
誌面情報 vol27
■3部制を2部制にして対応
東京消防庁では、平時は4000人ずつが3部交代で24時間、消防活動にあたっている。3月12日からはこの3部制を、当番・非番の2部制に切り替えて対応にあたり、それにより浮いた4000人を各地への派遣に充てた。東京消防庁では、今回の東日本大震災関連で最終的に東北への緊急消防援助隊に加え、千葉や静岡(3月15日夜震度6強を観測)、そして福島の原発対応など計514隊3243名を派遣している。
■福島原発への対応
東京消防庁の今回の震災対応で、特に注目を浴びたのが福島第一原発への派遣だ。3月12日の午後3時20分頃に、福島第一原発を冷却するために、原子力安全・保安院から消防庁長官を通じて、スーパーポンパーという大量放水車を貸してくれという連絡が東京消防庁に入った。この時はまだ、福島第一原発1号機が爆発する前のことだ。車だけを貸してくれればいいということだったが、特殊車両で一般の人では運転ができないため佐藤氏は8部隊に同行するよう指示をした。その11分後に第一原発が水蒸気爆発を起こした。
国から直ちに連絡が入り「原子力安全・保安院も東京電力も大混乱した状況で安全確保ができない」とのことで、派遣部隊の命令が取り消されたという。佐藤氏が既に出勤した部隊の位置を確認すると、ちょうど守谷のインターチェンジにいたため、すぐ部隊に対し引き返すよう指示した。
原子炉を冷却しなくてはいけないことは佐藤氏自身、承知していたし、そのことも問い質したが、そもそも原子力災害対策特別措置法では、原子力災害の対応は自衛消防隊か国が対応することが決められていて、地方自治体は対応することになっていないため、自衛隊が対応するということだった。
結局、12日は東京消防庁の出動は見送られ、3月14日に、消防隊に代わり自衛隊が注水活動に取り掛かった。ちょうどその時、3号機が爆発。自衛隊の数名が被爆した。
「もし東京消防庁が注水活動にあたっていたら、8隊28名の消防隊員が被ばくしていたかもしれません。情報をしっかりとって、状況を見極めないと部隊の安全というのはなかなか担保できないことを思い知らされました」(佐藤氏)。
■内部で作戦会議
15日になると2号機の燃料棒が露出していることが報道されていた。ただ、詳しい情報はほとんど発表されていなかった。「東京消防庁にも詳細情報が国から入ってこない混乱した状況でしたので、マスコミの情報や、海外の情報をインターネットや知人を通じて集めました」と佐藤氏は振り返る。
冷却水の水位は次第に下がり、16日には燃料棒の冷却が急務であるとの報道がなされていた。
東京消防庁では、12日にスーパーポンパー貸出の要請を受けてから、独自に注水の作戦を検討していた。原子力災害の対応は国の責任であっても、注水が必要ということになれば、やはり東京消防庁が出ていかざるを得ない状況になることを佐藤氏は予測していたという。
これとは別に、東京消防庁のハイパーレスキュー隊では、かねてから放射線での爆破テロなどに備え、原子力に対する消防活動の原則を作っていた。内容は、被爆線量は普通の時に10ミリシーベルトで、人命救助のときは100ミリシーベルトまでと定められていた。ただし、100ミリになったときは、生涯にわたってその人は、放射線対応の業務に従事させないという基準が加えられていた。
誌面情報 vol27の他の記事
- 災害対応のスペシャリストが振り返る 石油コンビナート火災の消火から、福島第一原発冷却までの戦い
- 危機発生時における状況判断
- 東日本大震災での安否確認 NEC
- 災害に負けない条件 防災からレジリエンスへ
- 特別寄稿 東日本大震災における行政の危機対応
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方