■熊本地震から見えてきた「今後やるべきこと」

次にここ数年相次いでいる大地震について。2016年4月の熊本地震と2018年6月の大阪北部地震を参考に、事業への影響と教訓を探ってみよう。被災企業を対象に実施した内閣府「企業の事業継続に関する熊本地震の影響調査報告書」によると、次のような傾向が読み取れる。

一つは、被災地域の企業の第1四半期の売上高について、被害のあった企業の6割以上が対前年比で減少したと答えており、3割近くは20%以上の減少となっていることだ。また、取引のある企業の同期の売上高については、熊本地震による被害ありとした企業の約4割が減少したと答えている。

次にBCPの策定によって有効であった点について聞いたところ、46%の企業が「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入」、次いで回答のあった企業のうち3割以上が、災害担当責任者の決定、安否確認や相互連絡のための電子システム、火災・地震保険等への加入、避難訓練の開始・見直しが役に立ったと答えている。

一方、被害を受けた企業に、行いたいがこれまで実施できていなかった取り組みについて聞いたところ、回答した企業の半数近くが「BCPの見直し」や「クロストレーニング」を挙げている。これはBCP策定企業内に、依然としてBCPの方針や手順、対策等について過不足があることをうかがわせる。クロストレーニングとは1 人で複数の業務を処理できる知識やスキルを身に付けるための教育や訓練のことだが、災害では常に、予定していた担当者が業務につけないなどの人員不足の問題が生じることを身を以て体験したわけである。

■BCPに完成形はない

大阪シティ信用金庫が2018年7月24日に発表した「中小企業における大阪北部地震の影響と災害時対策」によると、地震で「操業に支障が生じた」企業は26.3%と4分の1以上の企業が何らかの支障があったと答えている。具体的な影響では「従業員の出社遅れ」(50.7%)、「取引先の支障で営業できなかった」(25.5%)が目立った。交通網の寸断や取引先の受入れ停止などが影響している。

一方、この地震を契機に企業の意識に変化も見られた。例えば、今回の地震発生直後にどういうことを懸念したかと聞いたところ、81.3%の企業が「また大きな地震が発生する」と答えている。また、すでにBCPを策定していた製造業の割合は13.3%(未策定は86.7%)だが、今回の地震で「BCPが役立った」と答えた製造業は53.6%に上る。逆に「あまり役立たなかった」と答えた製造業は20.3%あったが、これはBCPの価値や有用性の有無というよりも、BCPに完成形はなく、常に試行錯誤の中で生かすものであることを示唆している。BCPを策定していない製造業のうち60.1%が「今後自社でBCPを策定したい」と回答していることは注目すべき点だ。

なお災害を経験した企業の教訓事例については、「リスク対策.com」の中に豊富なコンテンツがアーカイブされているので、ぜひ参考にしてもらいたい。

(了)