2016/05/24
誌面情報 vol55
廃棄物リスクが会社を危機に陥れる
廃棄した冷凍のビーフカツを産廃業者が不正に横流しした事件は、食品業界全体に大きな影響を与えた。食品に限らず産業廃棄物の処理をめぐる問題は、企業の信頼・ブランドイメージを失墜させるだけでなく、時として企業の存続そのものを脅かす危機に発展する危険性を有している。悪意がなくてもマネジメント体制が不完全だったり、専門的な知識がないことで、知らない間に加害者になってしまうケースもあるようだ。企業の廃棄物問題に詳しい株式会社ミズノ代表取締役社長の水野昌和氏に企業として気を付けるべき点を聞いた。
Q. CoCo壱番屋が廃棄した冷凍のビーフカツを産廃業者が横流しした事件をどう見てますか?
廃棄した冷凍のビーフカツを不正転売した産業廃棄物処理業者が悪いのは当然だが、一方で、こうした業者に委託した企業の管理体制はどうなっていたのかという疑問を持たれてもおかしくない。しかし、今回こうした指摘は一切出ていない。それだけ、ココイチ(CoCo壱番屋)の対応が素晴らしかったのだろう。
Q. どのような対応が素晴らしかったのでしょうか?
私は3点挙げることができると思う。1点目は、パート従業員さんが、不正に販売されている商品が自社の商品であることに気付き報告・行動できたこと。つまり、こうした従業員を育成する教育体制がしっかりしていたということだ。2点目は、パート従業員の通報が即座に経営陣に届く連絡体制になっていたという点。組織というのは、大きくなればなるほど、なかなかトップの経営層に情報が届かない。3点目は、短期間で情報を集めて素早く情報公開をする経営陣の高いコンプライアンス意識と決断力だ。
Q. 壱番屋に責任がないと言えるでしょうか?
その点については、廃棄物処理法や愛知県の条例に順じた管理ができていたのだろうかという論点からもこの問題を見る必要がある。
廃棄物処理法第3条には「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と「自らの処理の原則」が明記されている。しかし、実際に自社施設内に焼却施設を建設したり埋め立て処分場を造るのは難しいため、第12条には、許可を持っている業者に委託をしてもいいという条文が用意されている。
ただし、許可業者に委託をしたら、それで責任がなくなるのかというとそうではない。12条7項では「産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない」とある。要は、リサイクルが終了するまで、あるいは最終処分が終了するまでは、排出企業の責任においてしっかりと最後まで管理をしてくださいということ。
では、ココイチは、排出事業者の責任を全うしていたのか?という疑問を持たれるかもしれないが、愛知県からは「廃棄物処理法違反」ということは発表されていないので、おそらく、責任は全うしていたのだろう。
誌面情報 vol55の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方