2019/08/19
安心、それが最大の敵だ

その2<日本の仮想敵国はどこにあるのか>(半藤一利)
「憲法を改正して軍をつくるとなったとき、まず必要になるのが仮想敵国の設定でしょう。
軍備はただ増やせばいいというものではない。『世界の警察』をもって自任するアメリカはともかく、どこの国であれ、それぞれ仮想敵国を設定して、それに見合った軍備を整え、訓練を行っています。戦前の日本であれば、陸軍はロシア、海軍はアメリカが仮想敵国でした。強国2つが仮想敵国とは、なんと強気かと驚かれるかもしれませんが、事実そうだったのです。
さて、それではこれから日本に軍隊をつくるとして、我々はどこを軍隊を整備する上での仮想敵国とするのでしょうか。
東西冷戦の時代なら、ソビエトを仮想敵国としておけばよかったでしょう。実際、陸上自衛隊ではソビエト軍の北海道上陸を阻止するためとして、最初に北部方面隊が置かれました。
しかし、今の時代にまさか本土上陸作戦を決行してくる軍隊がいるとは思えない。少なくとも、ロシア軍が北海道に上陸してくることは考えにくい。
そこで多くの方々が考える仮想敵国は、当面のところまずは北朝鮮でしょう。実際に、北朝鮮は核実験やミサイル実験などで軍事的挑発を続けており、もし北朝鮮が武力行使に踏み切るとすれば、日本がターゲットの筆頭となるに違いありません。
しかし、忘れてならないのは、北朝鮮にさしたる海軍がないことです。つまり、北朝鮮が本格的な日本上陸作戦を行ってくる可能性はゼロです。つまりここでは軍隊の大々的な整備よりも、ミサイル防衛システムの整備、あるいは外交努力の方が重要になります。
また、軍事大国化していく中国についても、脅威を感じている方は多いはずです。
しかし、中国を正式な仮想敵国として軍備を拡張するには、とてつもない予算が必要になります。それに日本と中国は経済的結びつきが強く、戦争などどちらにとってもメリットはありません。特に、現在の中国では貧富の格差が拡大し、それこそ国内を抑えることで精一杯なのです。
中華思想の彼らですから、尊大な態度をとってくることはあるでしょうが、経済関係を無視してまで戦争をしてくることは、まずありません。領土的野心のないのはもちろんです。
そう考えると、日本の仮想敵国はどこになるのでしょう。はっきり言ってしまえば、ないのです。(引用者:「ないのです!」)
北朝鮮や中国を仮想敵国としたところで、それは空中楼閣に向かって鉄砲を撃つようなもの。まったく税金のムダになります。
憲法改正の議論も、別に結構なことでしょう。若いみなさんがこの国の行き先を決めていくのが一番です。
ただ、『あいつらはどうも危なっかしい』と空中楼閣を描く前に、まずは北朝鮮なり中国なりの国情を徹底的に調べ上げるべきです。
太平洋戦争の当時、日本人はありもしない空中楼閣を描き、『きっと大丈夫だろう』『きっと今度もうまくいく』『いや、大丈夫に違いない』と主観的な希望だけでもって突き進み、大きな失敗をしました。(中略)。もう何度も同じ失敗を繰り返す必要はないのです」。
謝辞:「日本人と愛国心」(半藤一利・戸高一成、PHP文庫)から引用させていただいた。心から謝意を表したい。
(つづく)
- keyword
- 安心、それが最大の敵だ
- 自衛隊
- 憲法
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方