2 日本の災害時における動物保護の現状

(1) 法令
ア 動物愛護管理法6条は「都道府県は、基本指針に即して、当該都道府県の区域における動物の愛護及び管理に関する施策を推進するための計画(以下「動物愛護管理推進計画」という)を定めなければならない」とした上で動物愛護管理推進計画に、災害時における動物の適正な飼養および保管を図るための施策に関する事項を定めるものとしている。

また同38条は「都道府県知事等は、地域における犬、猫等の動物の愛護の推進に熱意と識見を有する者のうちから、動物愛護推進員を委嘱することができる」とした上で動物愛護推進員は災害時において、国または都道府県などが行う犬、猫などの動物の避難、保護等に関する施策に必要な協力をするものとしている。

そして、同法の2012年改正における付帯決議において、「被災動物への対応については、東日本大震災の経験を踏まえて、動物愛護管理推進計画に加えて地域防災計画にも明記するよう都道府県に働きかけること。また、牛や豚等の産業動物についても、災害時においてもできるだけ生存の機会を与えるよう尽力し、止むを得ない場合を除いては殺処分を行わないよう努めること」が求められている。

イ しかし、同法には自治体に同伴避難を可能にすることを義務付ける規定はない。また災害基本法、災害救助法には動物に関する規定そのものがない。

(2) 行政の取り組み
ア 災害時の動物の取り扱いについては、東日本大震災後自治体の取り組みが意識的に進められるようになった。

特に防災計画への挿入(93.6%が都道府県の実施率、2014年調査。以下同じ)、飼い主への普及啓発(66.0%)、獣医師会との連絡体制の整備や協定締結(70.2%)などが進められつつある(※1)。

例えば東京都は東京都地域防災計画(震災編)において、市区町村について「開設した避難所等に、動物の飼養場所を避難所施設に応じて確保する。避難所内に同行避難動物の飼養場所を確保することが困難な場合は、近接した避難所等に飼養場所を確保する」とした上で、あわせて都福祉保健局が区市町村と協力して、飼い主とともに同行避難した動物について、各地域の被害状況、避難所での動物飼養状況の把握及び資材の提供、獣医師の派遣など、避難所から保護施設への動物の受け入れおよび譲渡などの調整、他県市への連絡調整および要請の取り組みを行い、適正飼養を指導するとしている。東京都地域防災計画(風水害編)においても同様である。

イ また国(環境省)も「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作成、配布している。たとえば「自治体等では、飼い主がペットと同行避難する事を前提とし、避難所における受け入れや仮設住宅におけるペットとの同居について、体制を整備する必要がある」としている。

ウ しかし、これに対しては「1995年の阪神・淡路大震災や2000年の三宅島噴火などを通じて、災害時の動物救護について各方面で情報が伝わっていたはずである。それでも、防災計画への挿入以外の災害対策を進めていた自治体が1割程度であったことを考えれば、東日本大震災も「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という結果になりかねない」との指摘がある(※1)。

また、例えば2004年の新潟県中越地震においては避難所に人とペットが同伴しての避難生活が認められ、また2016年の熊本地震でも西原村では同伴避難が原則とされ同村ではすべての避難所が同伴可とされた一方で、平成27年の常総市鬼怒川決壊では避難所への同行避難が認められなかったなど行政の対応は統一されていない(※2)。

(3) 裁判例等
ア 近年、ペットの動物が死傷した場合に慰謝料請求を認める裁判例が現れつつある(名古屋高等裁判所2008年9月30日判決、慰謝料額40万円、交通事故民事裁判例集41巻5号1186頁、神戸地方裁判所2013年9月5日判決、同5万円、交通事故民事裁判例集46巻5号1159頁など)。

直近では東京電力福島第一原発事故福島訴訟第一審判決(福島地方裁判所2017年10月10日判決、判例時報2356号3頁)が「ペット賠償は、ペットという財物の喪失と同一の原因に着目して支払われるものであり、財物損害に伴う精神的損害の増額要素(一般に、財物損害については価値相当額の賠償によって精神的苦痛も慰謝されるところ、特別の事情により精神的損害を認定するための要素)としての性質を有している」と判示している。

イ また裁判例そのものではないが、東日本大震災に起因する原発事故の賠償において、事故当時、中間指針の定める避難指示など対象区域に居住しており、避難生活を余儀なくされたことにより、哺乳類(犬や猫など)や鳥類のペットと離別または死別したことについての精神的損害を賠償する運用が行われている。実際、ペットの世話のための交通費を月額2万5000円として請求対象期間である18カ月分が認められ、移動回数多数、家族の離別、ペットとの離別という事情のある避難者について月5万円の慰謝料増額が認められている(※3)。

ウ しかし、同伴避難を認めなかったことを理由に自治体に対して法的責任を認めた裁判例や原発事故の賠償事例はない。