2016/10/04
誌面情報 vol57
巻頭インタビュー
Q5.これらのシステムは今も動いているのですか?
RFIDの登下校管理システムは今も使われていますが、残念ながら、赤外線センサーによる位置把握システムは動いていません。開発メーカーとの間で、一般利用の合意に至りませんでした。ただし、徹底した対策をしなければ、信頼の回復はできないということを考え取り組んでいます。
Q6.ソフト面での対策はいかがですか?
2004年に僕が学校危機メンタルサポートセンターに来た後、池田小学校の当時の校長が体調を崩して、急遽ピンチヒッターとして2007年から2011年3月まで校長をやらせていただくことになったのですが、2008年の時、教育課程特例編成により安全科という科目を作りました。
これは一般の学校でやろうと思ってもとても難しいことで、正式科目として位置付けるためには年間35単位を確保しなくてはいけないんですね。35単位ということは、時間割に毎週1回は「安全」が出てくるということです。このため、他の生活科目の時間を減らすなどして対応するとともに、3年生以降は総合学習の半分を「安全」に当てました。
授業では、教員が子供たちに安全について教えます。防災や防犯、交通事故など、さまざまな安全がテーマで、もちろん子供たちに教えることが目的ですが、教師もかなり勉強しなくてはいけません。今でも池田小学校では安全科を続けていますが、この取り組みにより、かなり全体の危機意識は向上したと思います。
Q7.教職員一人ひとりの意識がかなり重要になってきますが、意識改革で呼び掛けていることは?
学校における事故は、学校側の故意・過失、安全配慮義務違反が問題となり、その賠償には国家賠償法が適用されます。教員の「不作為」と事故発生の因果関係の検定が行われるのが学校事故の特徴です。
これは「逆の検定」といわれ、通常であれば因果関係を明確にするために「~したから~になった」ことを証明しますが、学校管理下の事故災害においては「もし、~していたら、この事故は起きなかったのではないか」と妥当性があると認められれば、因果関係が成立したと見なされます。つまり、ほとんど原告有利の判決が下されるというのが学校管理下の事案の状況です。
学校は代理監督責任、指導義務違反、安全配慮義務違反などを問われることになります。ですから、教職員には「親権者」の監督責任の代理者であるという認識をもっと持ってほしいと伝えています。
過失への対応には「予見可能性」と「結果回避義務」が重要になるわけですが、教師が「想定していなかった」というのは基本的に認められません。そこまで子供たちに目を向け、配慮しなければならないのです。安全確認が要求される職種であるという認識を持ってもらわなければいけません。
Q8.具体的な成果は評価されるのですか?
教育による効果というのは、単純に測定が難しいです。ただし、教師や子供たちの意識が大きく変わってくるのは事実です。
一方、こうした学校の危機管理の取り組みが陳腐化しないように、2010年3月には、日本で初めて、ISS(International Safe School)という国際的なマネジメントシステムの認証を取りました。
ISSは、スウェーデンのカロリンスカ研究所に設置されているWHO地域安全推進協働センターが推進していた学校の外傷予防を目的とした国際的認証活動の1つですが、昨年、協働センターが解散してしまったことから、この考え方を参考に、「自助、共助、公助」の理念のもと、日本独自の学校安全の考え方を基盤とする包括的な安全推進を目的に、文科省の承認を得て、「セーフティプロモーションスクール」という制度を立ち上げました。
Q9.セーフティプロモーションスクールとはどのようなものですか?
その理念となるのが「組織、方略、計画、実践、評価、改善、共有」の7つの指標で、これに基づいて、学校独自の安全(生活安全、災害安全、交通安全)を目的にした中期目標・中期計画を明確に設定し、その目標と計画を達成するため
の組織の整備とS‐PDCASサイクルに基づく実践と協働、さらに分析による客観的な根拠に基づいた評価の共有が継続されていると認定された学校を「セーフティプロモーションスクール」として認証するという制度です。
認証にあたっては、「安全が確保された完成された安全な学校である」ことが基準とされるのではなく、「教職員・児童(生徒・学生・幼児)・保護者・さらには子供の安全にかかわる地域や機関の人々が学校安全の重要性を共感し、組織的かつ継続可能な学校安全の取り組みが着実に協働して実践され展開される条件が整備されている学校」であると評価されることが重要になります。つまり、包括的かつ協働的な学校安全の推進をゴールとするスタートラインに立っている学校ともいえます。
誌面情報 vol57の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方