2020/01/27
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク

■ 介護スタッフの資質
さらに、介護の対象ではなく、介護を行う側の立場で見てみましょう。
中国で介護を行っている人の大部分は、地方出身の40~50代の女性です。いわゆる出稼ぎ的な人が多いということです。誤解を恐れずにいうと、介護スタッフのほとんどは学歴が比較的低く、肉体労働として家政婦や施設作業を担当する人たちなのです。
当然、介護を専門に学んだこともなく、ましてや日本でいうところの「おもてなし」、かゆいところに手が届くようなサービスを受けたこともなく、やったこともない人たちばかりなのです。
そのようなスタッフに対し、単純に日本のやり方を伝授したところで、しっかりとやれると思われますか? これは、まさしく現実の話です。
実際にスタッフ教育を行えば「チームワーク」という言葉や概念さえも分からないことに気づかされます。日本人教育スタッフにとっては、果たして介護専門教育をどこから始めたらよいかさえ分からなくなることでしょう。
日本の現場で実技を教える場合「こういうふうにすれば高齢者の負担が減る」とか「より快適に座ることができる」と言えば、顧客目線で物事を理解できます。しかし「自己中心的な社会」である中国で育ったスタッフに同じようなことを言っても、なかなかそのような発想に至りません。
彼らに対しては「こうすればあなたの腰の負担も減りますよ」とか「あなたがもっと楽に仕事ができますよ」と諭し、自分にマイナスではなくプラスなのだという理解に持っていかないと、同じサービスを持続させることが難しいのです。
そして給与体系についても、よく考えて構築する必要があります。実技を学ぶことで自分のスキルが上がりキャリアアップにつながるというような中長期的なメリットではなく、短期的なメリット、つまり「頑張った分より多く貰えるし、昇進も早い」ということを具体化していくことが必須です。そうでないと、人が定着しません。
■日本式介護は素晴らしい!?
よく言われる言葉に「日本式介護は素晴らしい」というものがあります。しかし、あらためて「日本式介護とは何か?」と問うてみてください。果たして明確に答えることができるでしょうか?
そうなのです。たとえどんなに良いものでも、相手が求めていないものは押し付けにしかならないのです。けっして「日本式介護」が良くないということではなく、その本質は何かを明確にし、現地のニーズにそれをマッチさせること、もしくは必要と思わせる戦略が必要となるのです。
このように、日本の企業は宝の持ち腐れ的な面が多いのです。
孫子も言っています。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と。その「彼」を知ることが不十分だと、戦うことさえできないのです。
(了)
日本企業が失敗する新チャイナ・リスクの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/24
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方