外国人介護福祉士候補生(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

■ 介護スタッフの資質

さらに、介護の対象ではなく、介護を行う側の立場で見てみましょう。

中国で介護を行っている人の大部分は、地方出身の40~50代の女性です。いわゆる出稼ぎ的な人が多いということです。誤解を恐れずにいうと、介護スタッフのほとんどは学歴が比較的低く、肉体労働として家政婦や施設作業を担当する人たちなのです。

当然、介護を専門に学んだこともなく、ましてや日本でいうところの「おもてなし」、かゆいところに手が届くようなサービスを受けたこともなく、やったこともない人たちばかりなのです。

そのようなスタッフに対し、単純に日本のやり方を伝授したところで、しっかりとやれると思われますか? これは、まさしく現実の話です。

実際にスタッフ教育を行えば「チームワーク」という言葉や概念さえも分からないことに気づかされます。日本人教育スタッフにとっては、果たして介護専門教育をどこから始めたらよいかさえ分からなくなることでしょう。

日本の現場で実技を教える場合「こういうふうにすれば高齢者の負担が減る」とか「より快適に座ることができる」と言えば、顧客目線で物事を理解できます。しかし「自己中心的な社会」である中国で育ったスタッフに同じようなことを言っても、なかなかそのような発想に至りません。

彼らに対しては「こうすればあなたの腰の負担も減りますよ」とか「あなたがもっと楽に仕事ができますよ」と諭し、自分にマイナスではなくプラスなのだという理解に持っていかないと、同じサービスを持続させることが難しいのです。

そして給与体系についても、よく考えて構築する必要があります。実技を学ぶことで自分のスキルが上がりキャリアアップにつながるというような中長期的なメリットではなく、短期的なメリット、つまり「頑張った分より多く貰えるし、昇進も早い」ということを具体化していくことが必須です。そうでないと、人が定着しません。

■日本式介護は素晴らしい!?

よく言われる言葉に「日本式介護は素晴らしい」というものがあります。しかし、あらためて「日本式介護とは何か?」と問うてみてください。果たして明確に答えることができるでしょうか?

そうなのです。たとえどんなに良いものでも、相手が求めていないものは押し付けにしかならないのです。けっして「日本式介護」が良くないということではなく、その本質は何かを明確にし、現地のニーズにそれをマッチさせること、もしくは必要と思わせる戦略が必要となるのです。

このように、日本の企業は宝の持ち腐れ的な面が多いのです。

孫子も言っています。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と。その「彼」を知ることが不十分だと、戦うことさえできないのです。

(了)