2017/02/08
講演録
IoT時代におけるサイバー攻撃のシナリオ
注目すべきランサムウェアの脅威
最近話題になっているのが身代金要求プログラムのランサムウェア。相手のPCの中に入り込みファイルを暗号技術で強制的にパッケージする。身代金を要求して支払われたら暗号を解除する仕組みで、足がつかないようビットコインで払うよう要求される。トレンドマイクロ社の調査によれば、25.1%の企業がこのウイルスの被害にあい、被害にあった企業のうち62.6%が支払っている。支払額は数百万円のケースもある。支払えば元に戻る場合が多いが、後で何度も攻撃を仕掛けられる可能性はあるし、裏社会に資金が流れるのでおすすめはできない。
身代金なしでの対応では解除ツールを使うほか、ボリュームシャドウコピーによる復元もできる。しかし何よりも、バックアップをしっかりとり、保管することが一番の対策になる。このウイルスにかかるとデータが暗号化されるので、完全性の喪失と可用性の喪失が同時に起こる。今、最も注目すべき攻撃なので注意してほしい。
IoT化が加速すると様々なものがネットワークにつながるので、攻撃対象も当然多様化する。対策はとても難しい。制御システムへの攻撃の例としては、2015年にウクライナ西部の都市イヴァーノ=フランキーウシク周辺で140万世帯が停電した。ウクライナ側はロシアからの攻撃と主張している。五輪を控える日本でもサイバー攻撃による停電には警戒が必要だ。
今後の一般的な攻撃対象として特に心配されているのが自動車。実際に起きた犯罪としては増幅器を使って電子キーの電波を増大させ、持ち主が車に対し近くにいると認識させ、ロックを解除させるケースがあった。そして車中のものを盗む。また、危惧されているのは外部から車をコントールしてしまう方法。良識的なハッカーが自動車会社に事前通告したうえで、自動車に対し遠隔操作を仕掛けた。すると数マイル離れたところからハンドル操作やブレーキの無効化などを実際に行うことができた。攻撃により車を制御するCAN(車載ネットワーク)が、つながらないはずのネットとつながってしまったためだ。ほかにもコンピューターが組み込まれている情報家電、防犯カメラ、コピーとFAXの複合機、医療機器などあらゆるものが攻撃対象になる。監視カメラのパスワードを設定しなかったばかりに、映像の流出も起こった。
サイバー犯罪は元手かからず割がいい
今後の対応だがますます攻撃は激しくなる。IoT時代は制御システムが大事で、セキュリティ対策は難しい。技術革新が進むことから、既存のIoTと今後のIoTに対する対策は分けて考えたほうがいい。前者はセキュアケートウェイ、後者は暗号認証機能を持つ低価格のセキュアチップの利用が効果的になるだろう。
攻撃元の組織化が進んでいる。従来のサイバー攻撃はハッカー自身によるものが中心だった。最近は犯罪者がハッカーを雇って行ったり、組織化したりしている。またロシアなど国家の関与も疑われている。サイバー犯罪は割のいい犯罪という話がある。なぜなら元手がかからず、足がつきにくい。サイバー攻撃のほか殺人などの請負までウェブを通じて行われる始末だ。
企業にとっての脅威には、サプライチェーンから調達した機器にプログラムが仕込まれ勝手に通信されるケースも考えられる。米国では中国の大手通信メーカー「HUAWEI」から調達した機器が深夜に動き、本国にデータを送信していた疑惑がある。また、中国のスマートフォンメーカー「Coolpad」が製造したハイエンド向けAndroid端末にバックドアの設置が発覚。信頼している製造国から買えばいいというわけではない。部品の製造国も疑わねばならないからだ。
研究者は攻撃の進化に対応できるように今から検討する必要がある。一般の技術者はセキュリティの動向を注意深く監視しなければならない。
(了)
- keyword
- TIEMS
- サイバー攻撃
- サイバーセキュリティ
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
月刊BCPリーダーズ2025年上半期事例集【永久保存版】
リスク対策.comは「月刊BCPリーダーズダイジェスト2025年上半期事例集」を発行しました。防災・BCP、リスクマネジメントに取り組む12社の事例を紹介しています。危機管理の実践イメージをつかむため、また昨今のリスク対策の動向をつかむための情報源としてお役立てください。
2025/10/24
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方