2020/03/02
気象予報の観点から見た防災のポイント
典型的でない大雪
気象の入門書には、東京に大雪を降らせるのは南岸低気圧である、と書いてある。南岸低気圧とは、日本の南海上を西日本や東日本の太平洋岸に沿って進む低気圧のことである。「南岸低気圧型」と呼ばれる気圧配置の模式図を図1に示す。

南岸低気圧が関東の南を通るとき、関東平野では北東風や北風が卓越し、低温になりやすい。上空には暖気が入っても、高度1キロメートル以下の低高度に寒気が滞留する現象がしばしばみられる。冬季に南岸低気圧が通るとき、東京では降雪の可能性を気にしなければならない。
東京の大雪の多くは、南岸低気圧によってもたらされるものである。記憶に新しいところでは、2018年1月22日に東京で23センチメートルの日降雪量が観測されたときも、低気圧が発達しながら本州南岸を足早に進んだ。冬季の南岸低気圧は、東京の大雪の典型的なパターンと言える。
ところが、本稿の主題である1998年3月1日の大雪は、典型的なものではなかった。当日9時の天気図(図2)によれば、関東の沿岸部に低気圧が見られるが、このときの雪の降り方は、通常の南岸低気圧による降雪とは大いに異なるものであった。その様子を図3で解説する。


図3は、羽田空港における1日0時から9時までの10分ごとの気温、風向・風速、10分間降水量の経過を示したものである(要素によって用いる目盛が異なることに注意)。羽田空港では、未明から北東の風が吹き、弱い雨が降っていた。気温はプラス8度から7度台であった。3時を過ぎると風速が増し、毎秒10メートルを超えるようになった。
5時ごろ、風向が北西に変わるとともに、気温が急降下を始めた。7度台だった気温は0度台に下がった。6時までの1時間気温降下量は5.3度に達した。気温が0度台になれば、降水は雨ではなく雪として降る。
こうした状況を生じさせた原因としては、積乱雲から吹き下ろす冷気の噴流が考えられる。横浜地方気象台で4時40分から1時間ほど、気象庁本庁のある東京都心でも6時37分から5分間ほど雷が観測されていたことも、それを裏付ける。すなわち、本事例の大雪は、積乱雲に伴う局地的な現象とみられ、南岸低気圧による典型的な大雪とは様相を異にする。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方