冬の白馬山 (画像:Photo AC)

あけましておめでとうございます。今年も消防現場で多くの助かる命を助けるために、そのヒントとなる記事を連載させていただきたいと思います。

さて、みなさんの初夢は何でしたか?私の初夢は何故か、今年2月9日から25日までの17日間にかけて開催される韓国の平昌オリンピックのテロ対策警備のため現地派遣されることになり、オリンピック開催中に起こる可能性のあるテロの手法をチームで予測。シナリオを作るために各ゲームが行われる会場をヘリで視察しに行った夢でした。

視察後、テロ対策会議で現地警察のテロ担当者が出したシナリオは「北朝鮮から発射されたミサイルがゲレンデ上部の山の斜面に着弾し、大規模な雪崩が起こり、観客を含めた数百人が雪に生き埋めになった」という想定で、どうやって大規模な雪崩から観客や関係者を救出することができるかを上空のヘリから考えていたときに目が覚めました。

目が覚めて、そういえば、北半球で積雪が予想される山岳地では2月、3月はが最も雪崩が多いと言うことを聞いたことがあるのを思い出し、さっそく消防の雪崩事故救出活動について調べてみました。

夢で出てきたシナリオ想定を映像にすると下記のような状態になります。



Avalanche à Tignes 7 mars 2017 (出典:Youtube)

冬季オリンピック中に雪崩事故が起こった場合、実際には上記の映像のように生き埋めになった数百人を助けるため、雪崩に巻き込まれなかった数百名もすぐに駆け寄って救出作業を手伝うと思います。しかし観客にはスノースコップやゾンデ棒(※1)などの携帯義務がないため救出道具の装備数が足りず、思うように救助活動がはかどらないことが予想できます。
※1ゾンデ棒:遭難救助の際、雪崩れで人が埋まっている場所をおおよそ確認できたあと、雪に突き刺して位置を確認するプロービングという捜索法を行うために使う。延ばすと長さ3mほどになる折り畳式のアルミパイプ製の棒。

理想かもしれませんが、雪崩が発生する可能性があるエリアや気象下では、下記の装備を一式持参することで、知識があれば相互に救助が可能になり、さらに現場に駆けつけた救助法を知っている人に貸すこともできると思います。

以下、雪山入山時、必要な自助・共助装備として必要とされている装備です。

・アバンチ・トランシーバー(通称:ビーコン)
https://www.youtube.com/results?search_query=avalanche+transceiver
・ゾンデ棒(別名:ブローブ)
https://www.youtube.com/results?search_query=avalanche+probe+how+to+use
・スノーシャベル
https://www.youtube.com/results?search_query=avalanche+snow+shovel+
・ザイル(12ミリ、30m)
https://www.youtube.com/results?search_query=rescue+rope+snow+moutain
・雪崩救命エアバック
https://www.youtube.com/results?search_query=avaranche+air+bag
・アバラング(雪崩呼吸器)
https://www.youtube.com/results?search_query=avalanche+avalung

過去の雪崩災害では、雪崩から生き残った人たちはすぐに救助者となって生き埋め者の救助を開始してもらい、負傷していても重傷以外の話せる状態であれば、搬送されるまで行方不明者の情報提供等を行うことで、救命率が高くなることが分かっています。

雪山に慣れている人は、次の雪崩が来ないか予兆を見守り、少しでも雪崩が起こりはじめた場合は大声かエアホーンでできるだけ早く雪崩流域範囲外へ向かって、退避を促すことが2次災害を防ぐ可能性が高いことも知られています。


Val disere 2015 Rescue of avalanche (出典:Youtube)

すべての入山者に雪崩災害救助資機材一式を装備してもらうのは課題が多いと思いますが、例えば3名に1セットでもレンタルでいいので貸し出して携行装備義務にし、さらに上記のような30分程度の雪崩救出救助要領ビデオを見せることで、雪崩発生時にはいち早く、雪山入山者同士がファーストレスポンダーとなることができ、迅速な人命救助が可能になると考えます。

以下、順不同ですが、雪崩災害の状況予測と救助手順等について考察してみました。

・日本は国土の半分以上が「豪雪地帯」に指定されており、毎年のように雪崩による災害が発生している。

・現在、雪崩が発生するなど大雪による災害危険箇所は全国で2万カ所以上もあり、消防活動時の2次災害リスクも大きい。現地消防団、雪山救助専門家などと一緒になって、さらに深く雪崩災害による救助法について研究し、実践訓練を行うことが求められている。

・消防が雪崩による生き埋め者の救助に出動する場合、現地の雪山専門家や地元の山に詳しい消防団員と一緒に出動することが多い。天候次第では、ヘリかリフトで直近まで行って、雪崩災害現場まで登るか、または、スノーモービルで行くこともできるかもしれない。

・要救助者が雪に埋まった場合は閉鎖空間となるため、限られたエアポケット内での呼吸を行うしか無い。そのため呼吸するたびにエアポケット内の酸素濃度が生命維持の必要量を下回り、窒息に至ってしまう。

・窒息に至る時間は、完全埋没なのか、部分埋没なのか、また、要救助者のエアポケットの大きさによっても異なると思うが、生存できる時間は短いので、現場到着後は早急に要救助者の捜索を始める必要がある。

・目撃者が居る場合は雪崩に呑まれた要救助者が最後に目撃された位置を仮定し、最後に目撃された場所の下方側を捜索範囲とする。

特に下記の場所が要救助者の重点捜索ポイントとされている。

雪崩の下方流路沿い
木や岩、柵、その他の障害物の周辺
雪崩の堆積物の下端付近
雪崩の経路の縁に沿った場所
(出典:Wikipedia 雪崩)


できれば指令センターが、最初に現場目撃者である通報者から救助要請を受けた場合には消防隊が到着前に雪崩に呑まれた場所に目印を置くように指示する。雪崩の起こった場所に入っても安全なようであれば状況に応じて、現場関係者に2次雪崩に注意しながら、できる範囲で捜索を開始することを伝えてもいいかもしれない。また、救助隊の到着前に関係者から生存者の人数を推測し、誰が何人、雪崩に埋まっているのかを把握してもらう。

もし、雪崩の起こった場所に入るのが危険と感じられる場合は、要救助者を最後に見た場所の目印から、雪崩の流路に沿って斜面の下の方を目で見て探すか、または、声などで応答を得ることも可能。

しかし多くの場合、2度目の雪崩発生の危険があり、捜索中の目撃者や関係者達が巻き込まれる2重遭難が起きる可能性がある。雪崩捜索訓練等を受けたことがない関係者への指示には注意が必要だ。

下記の実際の救助シーンを見て要救助者になったことをイメージしてみると自分たちが行う救助に何が必要かがわかる。

Avalanche Rescue Experience for real | Eng cc (出典:Youtube)

埋まっている時間が経てば経つほど窒息の可能性が高くなり、生存率は急激に低下していくため、消防隊到着前の司令センターからの指示としては最初の重要な15〜30分間は全員で捜索に専念し、誰かを救援を呼びに行かせたりさせないことも2次遭難の予防になる。

特に部分的に埋まっているか、浅く埋まっている被災者であれば、雪崩の流路範囲を目で見て探したり、埋まっている衣服や装備品らしき物を引っ張ってみるだけで素早く見つけられる事が多いと言われている。

現場関係者で無線機を持っている人がいたら、無線機を受信モードにして埋まっている人からの送信をチェックしてみたり、無線を送信して発信者の声が聞こえる場所を探してみる事も有効だ。

携帯電話がGPS機能付きで、グループでお互いを探すための事前設定をしていた場合は、電波環境にもよると思うが、アプリやサイトを通じて捜索することも可能かもしれない。相互に事前設定をしていない場合は、携帯電話に掛けてみることで埋まっている場所が特定される可能性もある。

埋まっている人の携帯電話が鳴った場合は、音を辿ったり、目視で埋まっていそうな場所を選んで探し、ビープ音(あるいは声)が聞こえないかを探しつつ、雪の上下や何らかの動き、ストックや帽子など、要救助者の持ち物なども探しながら、雪崩の流路となった場所から外側へ捜索範囲を広げていく。

関係者がプローブを持っている場合は、線状にプローブを突き刺していき、埋まっていそうな場所にプローブを突き刺して手応えや反応をチェックすること。既に調べた場所には印を付けることも忘れないようにしたい。


BCA Companion Rescue Series: Probing 101 (出典:Youtube)

その他、笛や何かの信号を受信したり、滑落しながら落としていった装備品が見つかった場合は在留品を動かさず、全て目印を付け、目印を付けた手掛かりの周辺もプローブや声で探し続けることも大切だ。

埋まった要救助者が見つかった場合は、いち早く要救助者の頭部、特に口と胸部を掘りだす。要救助者が意識不明で呼吸がなければ、直ちに人工呼吸と胸骨圧迫などの心肺蘇生法やAEDの装着などの救命処置を行う。呼吸がある場合は、携帯用酸素があれば投与し、表面複温法を用いて要救助者の体温をできるだけ戻したうえでアルミシート等を用いて保温し、病院に搬送されるまで風を避けた場所で、低体温症の悪化を予防することも重要となる。

いかがでしたか?

英語ですが、下記の資料は最新の雪崩救助資機材を用いた一連の流れが載っています。この資料は是非、日本語訳したいと思っています。

■AVALANCHE RESUSCITATION(ALICIA PETERSON, MD Emergency and Wilderness Medicine)
http://www.45pr.com/A.%20Peterson_Avalanche%20Resuscitation.pdf

消防職員が知っておきたい大雪災害対応、雪山遭難救助、雪崩レスキューなどの基礎知識は下記のサイトや資料で学ぶことができると思います。

■雪崩回避&雪崩セルフレスキュー テキスト (山なかま・シリウス)
http://www.yamanakama-sirius.org/oyakudachi/gijutsutext/Yukiyama_PDF/Self_Rescue.pdf

■知っておきたい雪崩の知識 (国土交通省 東北地方整備局)
http://www.thr.mlit.go.jp/shinjyou/04_gakushu/nadare/pdf/nadare.pdf

■山岳遭難防止マニュアル (福井県ホームページ)
http://www.pref.fukui.jp/kenkei/seanbu/tiikik/sangaku/manual/sangakusounannbousi.pdf

■雪崩現象の基礎に関する技術資料(案)(独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所)
http://www2.ceri.go.jp/snow/gijyutu/base_of_avalanche.pdf

スイスなどヨーロッパの雪崩災害救助隊等は、多数の生き埋め者が雪崩発生から雪の中に閉じ込められた時間予測に応じて、下記のようなトリアージチェックカードを用いています。

■雪崩災害時のトリアージタグとチェックカード
http://www.alpine-rescue.org/ikar-cisa/documents/2013/ikar20131206001112.pdf

■雪崩災害による心肺蘇生ガイドラインチェックカード
http://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(17)30020-5/pdf

雪山災害救助犬とヘリを使った雪崩からの救助映像を見ていると、犬を使った捜索の方が、広範囲を短時間に探せて、要救助者の匂いによる埋没箇所の特定も早いことがわかります。


Avalanche Search and Rescue | Explore Films (出典:Youtube)

日本語のサイトでは下記が、雪崩情報や捜索法や救助法、消防関係者の役に立つ情報が発信されており、さらにセミナーや訓練を受けることで、雪山災害の現場対応能力が向上するのではないかと思う。

■日本雪崩ネットワーク
https://www.nadare.jp/

最後に、昨年3月27日、栃木県那須町湯本の那須温泉ファミリースキー場で発生した雪崩で死亡が確認された県立高校の男子生徒ら8人の方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。

このような雪崩や雪災害等、自然災害による死者を出さないためには、消防も火災予防だけではなく、土砂災害、豪雨災害、洪水害など、それらの季節になる数ヶ月前に地域の災害特性に応じた、さまざまな災害予防に関する防災情報を広報し、また、一般市民ができる救助法や救急法、避難方法なども指導していく機会を具体的に増やす必要があると思います。

たとえば、下記のサイトにあるような、雪崩から身を守るための情報に地域の雪山ハザードマップ、雪崩発生危険のある山の名称や避難ルート、一時避難所、入山申請書、関係機関連絡先、搬送先病院等の必要情報を追加することで、地域に特化した消防広報になります。

■雪崩から身を守るために(政府広報オンライン)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201311/4.html

消防側も各種災害予防を指導することで、地域とのコミュニケーションの機会となり、消防士自らも災害を深く研究する機会となるため、殉職者を減らすことにも繋がることになると感じます。

今年も、今までに災害で亡くなられた方々の被災体験をお借りし、研究して生かし、そして、次の犠牲者を出さないよう「助かる命を助けるために」さまざまな形にして還していきたいと思います。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
info@irescue.jp