※画像はイメージです(出典:Pixtabay)

前回に引き続き、「VEIS(ヴェイス/ Ventilation:排煙、Enter:屋内進入、Isolate:隔離、Search:検索)の基本的な初期現場活動について(後編)」をお送りします。前回の連載はこちらから。

■VEISの基本的な初期現場活動について(前編)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4856



13. 継続して同じフロアを検索するかしないか?判断するための長所と短所

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

長所
・隊員がすでに側で待機していること。また、全ての必要な検索ツール(ホースラインを含む)が揃っていること。
・要救助者(単独 or複数)が最後の検索場所で見つからず、出口へ向かう廊下等で見つかる可能性がある。ホースラインを延長中に要救助者を見つける可能性もあるかもしれない。
・プライマリー(屋内階段)とセカンダリー(二連ばしご)の救出・緊急脱出手段という2方向避難の確保できている。
・避難できる部屋が特定されていること。

短所
・プライマリー(屋内階段)が確保されていない。
  2つめの二連ばしごを検索へ向かう部屋の窓へ架梯させる。
・十分な訓練ができていない。戦術が不安定&不確定。
  隊員の訓練習熟度を高める。訓練を行えば行うほど、隊の対応力は上がる。

14: 安全に検索を継続できるのか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

 Yes(できる)
・安全に活動するためにどの方向からどの部屋に検索を行っているのか?
自分たちの活動状況や具体的な検索位置を無線で伝える。
・検索終了した部屋のドアは次々に閉め、それぞれの安全な部屋の区画を
確実に守りながら検索を継続することで突然の危険な炎症などになった際に逃げ込む部屋を作っておく。
・検索している部屋の入り口にハリガンなどのツールを置くことで、後続隊員
等に安全に避難できる部屋の場所を伝える。
・検索する方向を継続して伝える。

15: 安全に検索を継続できるのか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

No(できない)
  ・検索した部屋から退出できない状況
 ・それぞれの部屋の外部から屋内進入しながらの検索活動
 ・検索しようとしていた部屋がすでに延焼していたり、濃煙に包まれていた
状態であれば、現場指揮者にVEISの段階が終了したことを伝える。

16、後続隊の隊長の行動

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)



・火災建物外部からの指揮命令を開始。
・CAN(Conditions:内部環境、Actions/Air:活動状況や屋内進入隊員の残圧、Needs:必要なことやもの)についてVEISを行っている屋内進入隊員から報告させる。
・建物周囲をチェックし、。
・指揮命令を確立する。
・消火活動を開始し、例えば体重200kgの要救助者を窓から救出しなければならない場合、必要な範囲で活動を容易にするためにドア枠を破壊したり、隊員の応援を得て、二連ばしごを平行に立てかけて窓から救出するための準備などを行う。

(※以下、VEISビデオの23:48から視聴してください)

Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)

・ウェストの位置よりも窓枠が高い場合
  ハリガンを使った窓からの進入方法
  ウェビングを使った窓からの進入方法

・二連ばしごを使っての2階開口部からの屋内進入
 梯子を架梯した隊員が梯子の確保を確認し、そのまま登梯した方が活動が早くなる。救出活動は数秒を争うことがあるため、1秒でも早く進入できるように無駄のないフォーメーションを考えること。
 また、もし、屋内進入隊員が要救助者を発見した際、二連ばしごを使って、安全、かつ、迅速に救出しやすい位置や角度に調整し、先行した屋内進入隊員に続いて登梯するサーモカメラで内部活動環境の監視を行う予定の隊員が要救助者を救出にあたることを予定しておくこと。

(※以下、VEISビデオの28:23から視聴してください)


Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)

VEISの手順:
1) 開口部のサイズアップを行う(破壊と同時に酸素流入による火炎吹き出し等)
2) 開口部を破壊し、進入時や救出時に怪我をしないように窓枠のガラスや破片を取り除く
3) 開口部の内側の真下に要救助者が居ないかを確認
4) 窓下の床を叩いて音を出す
5) ハリガンなどを部屋の内側へ置く
6) 開口部から屋内進入し、まず、部屋のドアを閉め、検索拠点の安全を確保する
7) 部屋のドアの熱を触知し、部屋の外側や廊下の検索と安全環境をチェックする
8) 二連ばしご上の後続隊員がサーモカメラにより、内部で検索中の隊員を監視する。

(※以下、VEISビデオの29:35から視聴してください)


Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)

進入した窓と部屋のドアの間で要救助者を発見した場合
・要救助者を発見したら、救出活動開始前に部屋のドアを閉めて区画し、安全環境を確保する。
・外の隊員に要救助者発見を告げ、二連ばしごによる救出を開始する。

住宅火災における逃げ遅れ者の44%がベットルーム(寝室)で発見されていること。次に15%が寝室につながる廊下で酸欠などにより倒れていたことが過去の火災統計で明らかになっていることから、進入したベットルーム(寝室)の検索終了後は、部屋の外側の廊下部分の検索も行うのを忘れてはいけない。

ビデオの中で要救助者を跨いで部屋のドアを閉めに行っているのは、要救助者に負荷を与えたり、様態を悪化させなければ、跨いででも早くドアを閉めた方が要救助者の救命率、隊員の安全は確保されるため、災害時は礼儀よりも、救命のためのスピードを優先する。

VEISを行うべきで無い場合

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・逃げ遅れの要救助者が居るか居ないかの情報が明確で無く、先着隊の隊員数が屋内進入隊員2名、屋外待機隊員2名を確保できない場合
・消火活動開始が迅速に見込めない場合、消火活動が同時進行中でない場合、消火準備が整っていない場合。理由としては、体重100Kg以上の人を開口部から救出するのは大変危険であるため、玄関や勝手口など安全な場所から救出するためには、消火活動も同時に行っておくべきであるため。常に現場環境を安全に、また、救出のために有利にしておくことを忘れない
・明らかに生命の兆候がない要救助者、ご遺体の搬出は行わない
・PPV(可搬ブロアー)とVEISは同時に行わない。目的が明らかに異なるため

複数の部屋の検索について

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・要因をトリアージする。
 ・火点直上階の部屋
 ・火点隣接室
 ・検索の可能性、優先順位の見極め
 ・火煙の流動方向
 ・活動人員の救出能力や状況やタイミング(10kgの子供が先か、200kgの大人が先か)

活動状況が困難な場合

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・急速な延焼や大炎上になった場合
 ・窓に立てかけた二連ばしごから緊急脱出を行う。フラッシュオーバーが発生した場合、個人装備は約15秒しか持たないと言われている。
 ・指揮者に緊急通報する

・要救助者が複数、または、要救助者が大きい場合
 ・現場環境が安全になるまで、予備の呼吸器や酸素吸入セット等を外部隊院から調達し、必要な救命、救急処置を継続しながら区画した部屋で待つ。
 ・窓からの救出よりもドアからの救出を選択する。
 ・二連ばしごを平行に使った救出も考慮する。
・二連ばしごの角度を低くし、要救助者の救出時の降下スピードを遅くする。ただし、梯子の基底部確保は2名以上で行うこと。

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)



・区画を確立できない場合
 ・屋内進入後、1分以内に部屋のドアを閉めて区画することができない場合は指揮者に報告する。ほとんどの寝室は3mx3m以内の広さのため、1分も有れば部屋のドアを閉めることができる。
 ・もし、部屋のドアが存在しない場合は、クローゼットのドア、洗面所のドア、マットレス、家具など、部屋に在るモノで、できる限り、部屋を区画する。
 ・すでに部屋が検索できないほどの熱気や濃煙に包まれてしまっている場合。

・VEIS以外の部屋での検索中に火点の部屋を発見したら
 ・すばらしい!
 ・VEISの部屋では無く、火点の部屋を区画する。
 ・無線で火点の部屋の位置や規模などを報告する。
 ・火点の部屋を区画し、消火隊員が来るまで待機する。ただし、濃煙、火炎が部屋から吹き出す状態、残圧が少ない場合、その他、待機すると危険な状態であれば、待機する必要は無く、待避を優先する。

何階でもVEISを活用できるか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


1階
・YES(できる)
 ・ざまざまな1階がある。傾斜面に有る部屋や半地下などへの屋内進入。
 ・進入に使う道具として、一般的にハリガン、ウェビング、ロープなどを使うが、現場に在るバケツ、コンクリートブロックなど、十分に隊員を支える強度が見込める場合は、それらを利用することも考える。

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


2階?
・Yes(できる)
 2連ばしごによる進入。屋外階段からの進入など。

何階でもVEISを活用できるか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


3階?
・おそらく可能。
 ・三連ばしごの積載。
 ・活動隊員のスキルと数。
 ・地面の表面状態(表面の強度、滑り、平衡状態等)
 ・2階屋根部分や屋外階段の踊り場からの進入も考慮。

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

  4階、5階、6階?
・おそらく可能。
 ・上階進入に使えるどのような機材を積載しているか?
 ・活動隊員のスキルと数。
 ・地面の表面状態(表面の強度、滑り、平衡状態等)
 ・隣接建物の屋根や屋上部分、屋外階段の踊り場からの進入も考慮。
  ・はしご車による屋内進入
 ・要救助者が動ける状態であれば、居る部屋のドアを閉めて待機するように指示、また、逃げ遅れた家族へも意識があれば部屋のドアを閉めて区画した状態で、消防隊の到着を待つように指示。ただし、部屋の鍵は掛けないように注意させる。

出典::Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

地下室?
・おそらく可能。
 ・地下階に外部から進入できる状態であれば可能。

窓からの要救助者救出(デンバードリル)足からの救出
(※以下、VEISビデオの42:13から視聴してください)



Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)
1、    要救助者の両足を救出する窓の下へ持ってくる。
2、    要救助者の両膝を曲げて、できるだけ壁に垂直に押しつける。
3、    要救助者の両手を外の隊員へ渡す。
4、    内側の隊員が要救助者の腰部を持ち上げる。外部の隊員は片手を要救助者の頭と肩の間に入れて引き上げて出す。

(※以下、VEISビデオの43:01から視聴してください)


Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)

1、要救助者の頭を救出する窓の下へ持ってくる。
2、要救助者の両足を外の隊員へ渡す。
3、外部の隊員は両足を引き揚げながら、要救助者の腰を窓枠まで持ってきたら、内側の隊員が要救助者の前身を持ち上げてサポートする。
4、外部の隊員は片手を要救助者の股間、もう片方を脇の下に入れて救出する。

次の3枚のスライドを見て、VEIS可能か?そうでないか?を話し合ってみましょう。また、具体的な活動方針や隊の行動、VEISができる理由、できない理由などを意見交換してみましょう。
いかがでしたか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)
出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)
出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

やはりどの現場においても、先着隊の小隊長や中隊長の活動方針がしっかりと判断されていれば、要救助者の救出も迅速になり、隊員も安全に活動しやすいと思います。

もちろん、隊長任せで無く、隊員達も隊長の判断を瞬時に理解し、活動をスピーディーに開始できるよう、普段から、訓練しておく必要があります。

これからは、自然災害も含めて、あらゆる災害対応ができるようにこのような具体的な実例と活動根拠や機材の選択理由、タイミングの判断、行った方がいい場合とそうでない場合など、今の消防士はもちろん、これから活躍する消防士、未来の消防士のためにもさまざまな視点から学べるようなビデオ研修教材を
各消防局や消防本部で数多く作っていくべきだと思います。

そのためには、実際の現場活動映像をヘルメットカメラやビデオカメラで撮影し、現象や方法など、部分的に消防戦術の教材映像となる素材を集める必要もあると思います。

新しいアイデアは、まず、聞き入れることから始め、何事もポジティブに捉えて、皆で研究し、きちんと評価&判断して、常に改善を考え、少しずつ取り入れてみることで消防力が高まっていくように思います。

今回のビデオをYoutubeで紹介してくださったパスコ市消防局の訓練部、マイク・マイヤー隊長に心から感謝したいと思います。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
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