保護者自身の健康管理も忘れずに!

そして、「つい子ども優先になってしまうかもしれませんが、保護者自身の健康管理も忘れないでくださいね!」なんて書いてあるのを見ると涙がでそうになります。災害時安心な地域は、日常から人に優しいということを実感します。

「災害時母乳が止まるのでは?→ミルクの備蓄を」という発想は世にあふれていますが、保護者に栄養のある食事を準備したり、授乳したりミルクをゆっくりあげるための落ち着ける場所の確保にむけて事前に動いている所はまだ少数です。

この点、東京都の文京区は、災害時0歳児と妊産婦について、大学と助産師会の協力で「妊産婦・乳児救護所」を設けています。

スタッフには、助産師、看護師、医師等の医療スタッフが入っていて、医療のアセスメントが可能な体制を整えています。

また、先ほど紹介した助産師の伊藤さんは、2011年5月に母子の支援室を開設されました。震災直後の母子の駆け込み寺として、安心の場を提供されていた関係で、現在は、地域の母子支援「NPO法人こそだてシップ」をたちあげ、保健師、栄養士、保育士の方と一緒に日々の暮らしの中で子育て中の親と地域をつなぐ活動をされています。

□NPO法人こそだてシップ
http://kosodateship.org/kosodate/

安易な自助を促すのではなく、公助と共助の体制を整える、それが、この問題には最も求められていることではないかと思います。

助産師会と自治体が災害協定を結ぶところも増えてきました。しかし、すべての避難所に数名派遣してほしいという要請があっても、助産師さんの数が足りないから協定を諦めたという地域もあります。文京区のように場所を限定してマンパワーを集中させる取り組みが増えればいいと思っています。

先日、乳幼児の子育て世代に講演をした際、参加者27人にお聞きしたところ、ほとんどの方が災害時母乳が止まるかもしれないという事や、液体ミルクの存在はご存知でした。しかし、母乳をあげ続ける事で母乳育児が継続できる事をご存知の方は0名でした。紙コップでもミルクなどをあげられることをご存知な方も0名でした。現在乳幼児を子育て中の方は、すべて東日本大震災後に生まれた子たちです。熊本地震より後のお子さんたちもいます。もっとも重要な情報が伝わっていないかもしれないことを危惧しています。

子育ての現場は「ワンオペ育児」や「孤育て」ともよばれるくらい孤立化が進んでいます。母乳育児は継続できるという重要情報、母乳育児の人にミルクをあげる際には医療のアセスメントが必要なこと、そのために地域の力を集める体制づくり、母乳育児の方のミルクの備蓄は、それらができた上で、最後におまけとして、もしも、母乳育児中の母親が死亡した場合や重篤な身体状況に陥ったケースとしてありうるが、その際にも医療とつながることが重要、という優先順位を飛ばさず発信していただきたいです。孤立化している中で、いきなり本人死亡(またはそれに類似)ケースのミルク備蓄情報が優先して届けられている現状は、酷な気がするのは、私の考えすぎでしょうか?

防災関係の方にお願いです。乳幼児の子育て世代に防災のことをお伝えする場合は、ぜひ、上記の佐久市医師会が作成した「子どもと防災」ページをプリントアウトして配布していただければと思います。

医療情報として根拠に基づき発信されています。加えて母乳でもミルクでも育児方法に関わらず、親子を支えることばに満ちあふれています。そのため、地域の方の思いやりが伝わりやすい防災情報になっています。

以上、マニアックな「母乳育児の人でも災害時にミルクや哺乳瓶を備蓄したほうがいうけど、どうなの?・・・」ということについて、いかがでしたでしょうか?

マニアックですが、実は、災害時と日常の連続性や支援の根本姿勢、それから、その後の地域がどのように存続していくかが問われる問題なのではないかと思っています。

この問題を通じて、すべての地域で、災害時であっても、その人のいままでの日常が否定されない、いままでの生き方や選択が大切にされる、そんな体制を整える地域が増えてくれたらと願っています。

(了)