2016/07/07
誌面情報 vol51
日本にスーパー台風が直撃したら
台風の強さを決める重要な要素の1つが海面水温です。9月を例にとると太平洋上は、現在だいたい29℃くらい、日本付近の海面水温は26℃~28℃くらいです。それが2076年には気温が2℃程度上昇すると予測されており、それに対応して海面温度も2℃ほど上昇します。つまり、太平洋は31℃、日本付近は29℃となり、現在のフィリピンあたりの海面水温が日本まで広がってくると予測されています。
一昨年、フィリピンに上陸した「ハイエン」というスーパー台風は、29℃くらいの海面水温の上を東から西に移動してきて勢力を弱めないままフィリピンに上陸しました。それと同じような海面水温が今世紀後半の日本付近にまで広まるのです。そうなれば、ハイエン級の強さの台風が日本付近まで到達すると考えるのは、大変自然なことといえます。
では、どのくらい強い台風になるのか。私たちは世界最速のコンピュータである地球シミュレータを利用してシミュレーションをしています。地球シミュレータは1秒間の計算回数が1300兆回というきわめて高速なコンピュータですが、それでも台風の進路や強さの予測の誤差を完全になくすることは難しいのです。私たちは大気の温度や風速、雲、雨、雪などを数値化し、詳細な気象を予測できるシステムとして、「雲解像モデル」とよばれるモデルを開発しています。
これを用いて、1959年に発生した伊勢湾台風の予測実験をしたところ、コンピュータのなかで台風の発生を再現できることができました。実際の気象庁とのデータと比較したところ、ほぼ現実と同じ値を示しました(図7)。

その雲解像モデルで、将来の温暖化した気候に発生したスーパー台風のうち日本に上陸したものをシミュレーションしてみました(図8)。上陸直前で中心気圧880hPa、風速は70m/s。風速は海上のもので、陸上はもう少し小さくなります。100mm毎時を超える雨が、台風の目の壁雲に沿って降ると予測されています。そして、この台風は伊豆半島付近に上陸するので、このとき東京湾の高潮は6mを超えると予想されます。将来的には、そのような最悪の事態を想定して防災対策を立てるべきです。

我々は地球を子孫から借りているのだ
2009年に台湾を通過したモラコットという台風がありました。この時に台湾南部に降った雨は3000mmを超えています。3mを超える雨が2日間の間で降ったのです。これはちょっと想像を絶する数字です。こんな雨は日本で起きないだろうと思っていましたが、2011年に台風12号が紀伊半島に1800mmという雨をもたらし、100人近い方が犠牲になりました。このようなまさに「メートル級豪雨」が実際に起こるような時代なってきました。
地球温暖化は疑う余地はありません。現在、未来の温暖化した台風の強度を精度良く求めるための研究を進めています。いまのところの結果では、将来発生が予想されるスーパー台風は最低中心気圧850~860hPa、最大地上風速は80~90m/sに達します。こういったものに対して、ハード・ソフト含めた長期的な防災対策を今から施すことが必要です。今世紀末と言うのは、それほど遠い未来ではありません。まさに自分たちの子や孫の時代です。最後に地球温暖化を考える上で非常に示唆に富んだアメリカの先住民のことわざでセミナーを終わりたいと思います。
「我々は地球を祖先から譲り受けたのではない。子孫から借りているのだ」(百億の星と千億の生命/カール・セーガン/新潮文庫)
(了)
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