水俣豪雨の概観

図3に、1時間ごとの気象レーダー画像を示す。当時の気象レーダーのデータは現在より解像度が粗く、約2.5キロメートルメッシュになっていて、画像は細かなモザイク状に見える。

画像を拡大 図3. 気象レーダーエコー強度分布の推移(2003年7月19日22時~20日6時)。水俣の位置を赤丸で示す

19日22時、五島列島の南に強いエコーが現れた。最も強い部分のエコー強度は、37~41ミリメートル/時(赤)である。23時には、エコー強度41~49ミリメートル/時(橙)のメッシュも見られるようになった。

20日0時、エコーの本体部分が長崎県にかかり、一部は熊本県にもかかり始めた。天草島の西方には、エコー強度49ミリメートル/時以上(紫)の最強ランクのメッシュも現れている。セルの移動距離から移動速度を測ると、東へ時速40キロメートル程度で進行中とみられる。この速度を維持すれば、エコーの最強部分は1.5時間ほどで天草島に、3時間ほどで水俣市に到達することになる。

20日1時、最強部分のエコーの形が変化し、東西走向に帯状に連なり始めた。帯の長さは130キロメートルほどになり、東側の先端部は天草島に達している。最近、このような形状の降水域を「線状降水帯」と呼んで警戒するようになった。真っすぐに細長く連なる形状が特徴で、集中豪雨時によく見られる降水帯である。名称に「線」の文字を含むが、決して線ではなく、幅をもっている。その意味では、これは決して良いネーミングとは言えない。

20日1時のレーダー画像では、上記の線状降水帯とは別に、水俣市付近でエコーが強まっていることに注目しなければならない。最も強い部分のエコー強度は、29~37ミリメートル/時(黄)である。水俣市の集中豪雨は、この頃に始まった。

その後、水俣市付近の強雨域は6時頃にかけて維持された。最盛期は4時頃で、エコー強度41~49ミリメートル/時(橙)に達している。1時の画像で見られた線状降水帯は、その後形が崩れた。水俣市付近の強雨域は、線状降水帯にはならなかったが、およそ5時間にわたってほぼ同じ場所で持続した。