2021/08/09
インタビュー
-
小田急電鉄祖師ヶ谷大蔵駅で警察官(写真:アフロ)
-
五輪開催中の8月6日午後8時半ごろ、東京都世田谷区を走る小田急線の上り電車内で発生した刺傷事件では、男が刃渡り約20センチの包丁で乗客を次々と刺し10人が重軽傷を負った。死者こそ出なかったが、灯油をまいて火をつけることも企んでいたことが判明しており、無差別大量殺傷事件になった可能性も十分にあった。同じような危機を防ぐはどうしたらいいのか? 日本大学危機管理学部教授の河本志朗氏に聞いた。
-
インタビュー:日本大学危機管理学部教授 河本志朗 氏
Q.五輪中におきたことについて
犯人は、以前から大量殺人を思い描いていたことが報じられている。世界中が注目する五輪期間中に事件を起こせば、より目立つため、あえてこの時期を狙っていたかもしれないし、これまで溜まっていた社会に対する不満が、コロナ禍や五輪によって一気に高まったのかもしれない。いずれにしても、こうした大規模な大会がある場合は、テロが起こりやすいことはこれまでも指摘されていた。
Q.防げなかったのか
防ぐことは難しかったかもしれないが、問題は、こうした事件が起きるかもしれないということをどこまで想像して、準備していたかが問われる。
事業者についていえば、日本の鉄道各社は1995年3月に発生した地下鉄サリン事件をきっかけに、乗客乗員の安全を確保するさまざまな対策を講じてきた。特に新幹線では、2015年に東海道新幹線で放火事件があり、その3年後には乗客が殺傷される事件もあり、JRでは、新幹線の車両内及び全駅や在来線の有人改札を有する駅には刺又、防刃ベスト、催涙スプレーを順次配備した。法制度面でも五輪を前に、鉄道各社が手荷物検査をできるように省令が改正された。
しかし、乗客が多い在来線では、対策に限界があることはこれまでも指摘されていた。乗客全員の手荷物検査は現実的ではないし、乗務員も2人しか乗っていないため、実際に事件が起きたとしても対応に手が回らない。
Q.どう対応すればいいのか
国土交通省がまとめている鉄道のテロ対策では、ベストプラクティスとして防犯カメラの設置が推奨されていて、実際、鉄道各社でも防犯カメラの設置は構内だけでなく車両においても進めている。近年は首都圏大手私鉄の在来線車両でも車内に防犯カメラ設置が進んでいると聞く。そうだとしたら、防犯カメラをつけていることを積極的に乗客に知らせることで、こうした事件の抑止効果は期待できるだろう。犯人は電車から逃走しており、自殺を図っていたわけでもない。防犯カメラに自分が写っていることを認識していなかった可能性もある。
もう1つは被害管理についてどこまで検討していたかも問われる。事件は、成城学園駅前付近を走行中の車内で起き、祖師ヶ谷大蔵駅付近で止まったが、このような事件への対応方法が鉄道会社のマニュアルなどで決まっていたのか、決まっていたとすれば、それは緊急停止がよいのか、あるいは次の駅まで走行して駅で止めた方がよいのか、こうした点をしっかり検証しておくことが大切だ。
電車内では、乗客が逃げられないことが最大の課題。だとしたら次の駅までいって止めたほうがいいのかもしれない。理想的には、警察や消防などと連携し、駅で警察や救急隊が待機することまでができれば被害はかなり軽減させることができるかもしれない。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方