米国で実際に郊外の農村の家屋で火災を発生させ、消火訓練を行っている様子。( Live Burn Training - Rural House Fire Training - Volunteer Firefighter Education - C2FR出典:Youtube )

講演や研修などで日本全国を回っていると、世界の消防士たちは消防学校や消防の職場で「どのような基準で、年間を通じて各種訓練や教養の授業」を受け、「どんな評価システムで、消防士の現場対応レベルを継続的に保っているのか」と質問を受ける。


Live Burn Training - Rural House Fire Training - Volunteer Firefighter Education - C2FR(出典:Youtube)

アメリカの場合、全米防火協会(NFPA)が発行する「NFPA1001」の「Firefighter1」と「2」という最低限の訓練基準を行うように定められており、各消防局の管轄におけるさまざまな消防事情に応じて、下記のような流れでオリジナルの訓練を作っている。

図表作成:サニー カミヤ

まず、「消防士の訓練カリキュラム」を新しく作成するには、既存の各種訓練の良いところは残し、改善する点の洗い出しから行う。

その際、なぜ、「既存の訓練を改善する必要があるのか」「改善しなければどのような悪影響や危険があるのか」なども改善の根拠として、訓練カリキュラム委員会等を立ち上げ、経緯を記録しておくことが重要である。

それぞれの訓練については、この3つをポイントにメニューを作成する。

・消防士にとって何故必要なのか?
・職務上においてどのように求められているのか?
・組織にとって消防力にどのように影響するのか?

「消防士の訓練カリキュラム」作成時のコンセプト

1、消防士の必要性について
① 初期トレーニング

初任科生、または新しい消防士向けのカリキュラムは、現場で必要な知識、装備取り扱いスキル、現場対応能力、安全管理、および被災した住民対応などのメンタル的なものまで、現場到着から現場引き上げまでのすべてに関する基本的な情報を提供し、それぞれ訓練を行い、技術と理解の確認と評価を受ける。

② 再訓練
初期トレーニングで身につけた全ての知識とスキルを維持するために、現場経験者がエビデンスベースで、それまで体験したことなども導入し、失敗した活動や結果を研究して相互に補強する。よく使う資機材のみでなく、まれに使用される資機材やスキルも最低限の訓練時間数を決めて、現場で実践できるように年に1回はすべての再訓練を行う。

③ 継続訓練
継続訓練のカリキュラムは、消防活動の基準の改善や慣行的行動、事故のニアミス、起こってしまった事故(組織の内外)の予防研究、警防活動手順、そのほかさまざまな規則など、より安全・確実・救命率の向上についての改善に重点を置いて訓練を行う。

④ アドバンス訓練
消防士がいずれは小隊長として、組織内の責任レベルを向上させるための準備を整えるため、小隊長の視点で現場対応訓練を行う。

・訓練指導者の資質
トレーニングスタッフ(教官などの指導者)は、より現場対応に即した訓練メニューを作成し、すべての訓練プログラムをすべてプレゼンできる能力と実際にやってみせる実力を持ち、安全管理を行いながら、訓練に参加する消防士の能力を評価する実力を持つ。

訓練を受ける消防士の潜在的な現場対応能力は、カリキュラムの構成内容に大きく左右するため、経験豊富な消防士には付加想定を与え、評価を受けることもある。

訓練を受ける消防士は、訓練毎に隊を組み、役割を与えられるため、得意、不得意やエゴが出てしまう場合もあるが、現場活動上のリーダーシップやチームワークもチェックし、いかに調和の取れた無駄のない消防活動を行える消防士であるかも評価する。

2、職務の必要性
訓練カリキュラム開発には、多くの人材、時間とリソースを費やす。また、最初の段階で訓練企画担当者による消防士の職務分析、構成分析、リスク評価が必要となる。

職務分析とは、まず消防士に足りないスキルや新しく必要なスキルを洗い出し、現場において訓練不足が原因で失敗しないために必要な知識と技術のサポートを目的として、それぞれの消防士に何が必要かを体系的に分析する。

長年現場活動を継続させるには、雇用状態の安全性、安定性、効率性、有効性が含まれる。職務分析は、訓練の実力だけでなく、個人面接、観察(日常的モニタリング)のほか専門家によるアドバイス、またはこれらの方法の組み合わせによって行う。

3、組織の必要性
住民や関係機関、所属する市町村へ、消防組織価値を高めるためにはどのような資質を持つ消防士を育て、個人装備の改善や新しい消防資機材が必要なのかを理解してもらう。また、必要のない資機材をいつどのように処分し、その資機材についての訓練メニューを削除するなど、すべての消防士が「何についてどのような訓練を受けているか」「すべての消防資機材を現場で安全に使いこなせる実力を持っているか」「配置換えが必要な消防士は」「新規予算要望の根拠は」など、さまざまな組織運営側からの視点で訓練を見る。

カリキュラム委員会から先は、コースメニュー作成や単位決め、クラスの選択、現場活用と体験に基づく評価をもとに、カリキュラム委員会にフィードバックして、さらなる改善を進めていく流れになる。

この「消防士の訓練カリキュラム」のプロセスを使えば、必要と思われる訓練を書き出し、日本版NFPA1001のたたき台が出来ると思う。

火災だけではなく、各種災害、人的災害バージョンなども作成し、世界に通用するJFPA1001を作ってみてはいかがだろうか?

(了)


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