企業はなぜ社会から信頼されなければならないのか
第12回:コーポレート・インテグリティとは

山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2022/06/03
スポーツから学ぶガバナンス・コンプライアンス
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
前回、大要、次の点をお伝えしました。
連載第12回となる今回は、コーポレート・インテグリティとは何かについて考えていきたいと思いますが、それに先立って、なぜ民間企業が社会により支えられており、社会からの信頼が必要となるのか、ひいてはコーポレート・インテグリティが必要となるのかということについて、触れておきたいと思います。
スポーツが社会により支えられ、生かされているといえることの根拠として、現代において、①スポーツの実践、②スポーツ団体の運営、③スポーツ競技大会の開催という面において、公的資金の投入が不可欠であることを指摘しました(連載第10回)。
これに対し、民間企業については、その成り立ちからして、直接的には公的資金は投入されていません。では、民間企業はどのような意味で社会から支えられているといえるのでしょうか。
まず、㋐個別企業レベルのものとして、当該企業が製造する製品や提供するサービスを購入してもらうという意味で、社会により支えられているといえるでしょう。
次に、㋑個別企業にとどまらず、その属する産業レベルのものとして、民間企業の活動を支えるために間接的に公的資金が投入されているといえることです。
例えば、自動車を販売するにも、その前提として自動車の走行に適する道路などの交通インフラの整備が不可欠で、そのためには公的資金が投入されているのであって、当該企業やその産業は社会により支えられている面があるといって差し支えないでしょう。
さらに、㋒株式会社制度・資本主義制度レベルのものとして、そういった制度自体が社会により支えられているという視点が挙げられるように思います。
株式会社制度・資本主義制度は近代ヨーロッパで発明され、ヨーロッパの覇権拡大に伴って世界中に広まっていった歴史的産物であり、決して普遍的・不変的なものではないのです。現代日本に生まれて育った我々にとっては、株式会社制度・資本主義制度は所与のものであり、当たり前のように考えてしまいがちですが、それは幻想・思い込みともいえます。
株式会社制度・資本主義制度が社会にとって有用・有益である限りにおいて、人々がそれを信頼し、受け入れ、その存続を支持しているのに過ぎないのです。つまり、株式会社制度・資本主義制度は社会により支えられており、この意味において、そのような制度を存立の基盤とする民間企業も社会により支えられているといえるのです。
以上のような3つの観点で、民間企業もまた社会により支えられているといえるように思います。
とりわけ、上記㋒の観点からは、例えば、個別の不祥事といえども、株式会社制度・資本主義制度それ自体を揺るがすようなものにつながりかねないため、個別企業の特殊な事案として処理して終わりにするのではなく、共通の問題として、つまり、社会からの信頼・応援の問題、コーポレート・インテグリティの確保・保全の問題として捉えて、取り組んでいく必要があるということになります。
コーポレート・インテグリティは、個別企業の問題であると同時に、企業(制度)全体の問題であるというべきなのです。
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