真正の学者といえども偏向から逃れられない
第20回:情報活用の方法論(5)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/07/28
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
今回は、専門家と呼ばれる中でも真正の専門家、学術界における研究者、学者を対象としたい。
学術界に限らず、人間社会においては通常、派閥とよばれる何らかの共通点や共有点を持つコミュニティーが形成され、時には社会的合理性がともなわないで、仲間内の利害関係を優先して物事が進むことがある。人間であるがゆえ、大なり小なり自然であり、これをすべて悪とはいえないだろう。
しかし、度が過ぎるとコミュニティーは既得権益化し、組織腐敗を招くのも道理。原理主義にまで発展し、自分たちを絶対正義として異論排除にまで至る。こうなると、もう悪といってもよいだろう。
反対できない風土は、政界では独裁につながり、企業では社内風土の劣化によるコンプライアンス問題の元凶となり、学術界では学術的発展の阻害、非論理的で偏向した学説流布のリスクが高まる。
ここでいう偏向学説流布は、中世でいえば宗教が科学を上回る思想統制に近しい。さすがに現代において自然科学の分野ではそこまでではないかもしれないが、社会科学と呼ばれる分野、何が正しいかが存在しない分野、文系分野では、派閥による思想統制が現実問題といえるように思えるのだ。
筆者はかねてより学術界の偏向性を問題と感じていた。政治、経済、憲法、歴史、社会学など、本来さまざまな論があって然るべきなのだがそうならず、異論が異端視され奔流となれない。そこに重要な視点が抜け落ちているように感じていた。この考えは、けっして筆者だけのものではない。
井沢元彦氏著の「逆説の日本史」シリーズで、歴史学者の問題点が解説されている。一読されることをお勧めするが、歴史学者は専門領域を「何時代」などと狭く限定する性質が強く、それがゆえに歴史の流れという大局的な視点が欠ける傾向があると指摘している。
そのため、通史という視点での歴史観において示される日本人の思考回路の特徴、長短を前提とした考察が欠落し、極めて短い期間の部分最適思考による考察が多く、ある意味常識レベルの人の判断基準や思考の基盤となる宗教的な背景などが欠落する誤謬性が顕著であるという。
また歴史学者は資料第一主義がゆえ、資料に書かれていないことはなかったことであり、書かれていることは、当然複数資料の裏付けが前提ではあるが、真実とされることにも弊害が生じるとしている。
これは、直感的には首を傾げるかもしれないが、その時代に資料に残される背景、書けなかった背景などを無視はできない。価値観は現代とはまったく違い、正義や悪の判断もまったく違う。科学技術知見も根本的に異なる。つまり、その時代の偏向情報となり得る資料の文字面だけでの判断は危険なのだ。
考えてみてほしい。戦時中の言論統制下でのプロパガンダは正しいのだろうか。政権交代し前政権を批判し自政権を正統化する資料は、書けることと書けないことが存在するのは当たり前ではないのか。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方