今年も水難事故が多く発生しました。川ではライフジャケットの着用をという記事をリスク対策.comで2016年に記載してからというもの、川と海は浮力が異なるということは多くの人に理解されるようになったので嬉しいです。

ところが、今年に入って残念なことがありました。ライフジャケットについて誤解している質問が増えてきたのです。

この夏、「ライフジャケットをつけて泳いではいけないというのは本当ですか?」という質問を、複数いただきました。

「ライフジャケットをつけて泳いではいけない」なんてことがあるのでしょうか?もちろん、浮力が足りない怪しいライフジャケットもあるので、そんなもので泳いではいけないことは当然です。

けれども、質問を下さった方の中には、「ライフジャケットは救助目的のものだから泳いではいけないものだと聞きました」という方もいらっしゃいました。

そこで、まず知っていただきたいなと思ったのは、泳ぐことを前提としているライフジャケットがあるということです。

例えば、川遊び教室などでよく利用されているのが、「RAC川育用ライフジャケット」の認定を受けたライフジャケットです。RACは、全国各地の川や水辺をフィールドとして活動するNPO法人や市民団体等で構成される全国ネットのNPO法人です。子どもたちを川に誘い、安全に楽しく活動する川の指導者の育成を行っていて、「川に学ぶ」社会を実現する取り組みの一環として川育用ライフジャケットの認定を実施しています。

http://www.rac.gr.jp/06pfd/ninteikisoku.html

認定には、以下の独自基準が設定されています。

①流れの中での活動でも体にしっかりとフィットし、脱げにくい構造であること
②川での活動などで動きやすく、泳ぎやすいこと
③水中において、顔面を水上面に支持し、身体が垂直よりも後方に傾き、呼吸が確保しやすい浮遊姿勢となるように つくられたものであること
④川での活動に必要十分な強度が確保されていること

「泳ぎやすい」と明確に書いていますよね。だから、泳ぐことを前提にしているものです。川で泳ぐけれど、どんなライフジャケットを選んでいいかわからないという場合は、参考にしていただければと思います。

このライフジャケットは、川用として浮力は高めに設計されています。大人用ですと7.5kgの浮力が最低限必要なところ、それ以上の浮力がある製品もあります。それでいて、さらに泳ぎやすさまで改良されているのがポイントなのです。

ちょっと細かい説明になってしまいますが、小型船舶に乗船する際、義務化されている「桜マーク」注1がついている救命胴衣というものがあります。救助が必要となった際に浮力を確保することを主目的とする製品ですが、こちらも規定の浮力は7.5kg以上あります。川で泳いだとしても、十分な浮力があるものです。ただ、流れが強くなる川では脱げやすい構造のものや泳ぎにくくなる製品も含まれています。だからフィット感が高く腕が動かしやすい構造であるといった川で泳ぐ用の専用商品が出てくるわけです。

ということで、ライフジャケットは救助用だから川でライフジャケットを着けて泳いではいけないというファクトはありません。むしろ逆です。ライフジャケットを着けないで泳ぐ方がリスクがあるため、世界的には自然区域でのライフジャケット着用は、「根拠ある溺水策」として確立されつつあります。次に紹介する原文は、いずれもswimmingとあり、泳ぐことを前提にしています。

2019年アメリカ小児科学会は根拠ある5つの溺水予防策の声明を出しました。この溺水予防策を日本小児救急医学会で報告された長野県佐久医師会教えて!ドクタープロジェクトの小児科医、坂本昌彦先生にスライドを頂いたので紹介します。

 

 

 
 

詳しくは、坂本先生のYahoo!記事をお読みいただければと思います。

1から5までどれもなるほどと思うものです。例えば、4を見てください。日本では子どもの水難事故が起こると、親に対して「目を離してはいけない」というアドバイスが発せられがちですが、「やってはいけない」というアドバイスは、結局何をするべきなのかが明確ではなく、また、まばたきもせずにずっと子どもを見続けることも現実的ではないので、ともすると精神論や親としての心得論のような抽象的な議論に陥りがちでした。これに対し、「乳幼児は腕の届く範囲で監視」「監視役の明確な設定(監視の有無だけでなく質が大事)」「浴槽、プール、池の近くで幼児単独にしたり他の子に世話をさせない」など、具体的な指示があるため行動指針になりやすく、親に対して訴求力のある内容になっています。

画像を拡大出典 American Academy of Pediatrics Drowning Prevention Campaign Toolkit(2019) https://www.aap.org/en/news-room/campaigns-and-toolkits/drowning-prevention/

上のイラストも同学会のものですが、「目を離さない」ではなく、子供が溺れる時間は午後4時から6時が半数で、理由として食事の準備中に目が離れることを挙げ、やるべき行動として、他の大人の監視役を決めることを具体的に提案しています。このエビデンスベースの啓発は、子どもとその親を熟知した小児科医の方々の底力を発揮しているように思えます。

そして、根拠ある溺水予防策の2としてライフジャケットが出てきます。声明では、ライフジャケットについて、子どもだけでなく、全年齢について着用が推奨されています。国内でも河川財団の調査で、親が一緒に川に遊びに行くだけでは子どもの命を守ることはできず、親が救助しようとした際の二次災害としての死亡事故が多いことがデータとしてもわかっています。詳しくは過去記事「川の事故、パパたちこそがライフジャケットを着けるべき理由水難事故に遭いやすいのは男性! 家族連れの二次災害」に記載しています。