「社員を守らない会社」と批判されるリスク
第11回:社員に対するネットの誹謗中傷にどう対応?

吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2024/08/09
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2024年7月17日、ゲーム会社のセガが、社員に対する誹謗中傷に法的措置を行ったとするニュースリリースを公開しました。ネットでの誹謗中傷に関連して、被害を受けた社員個人ではなく、企業が法的措置を行ったという事例は記憶にありません。どういうことなのか、今回はこの事例を考えてみたいと思います。
まず、セガのリリースを見てみましょう。
具体的になにが起きたのかわからない、少々もやもやするリリースですが、仮に誹謗中傷者が特定されたら、その人がまた過剰なバッシングを受けてしまうでしょうから、詳細を伏せるのはやむを得ないことです。
とはいっても、気になったので少し調べてみると、セガの「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(以下、プロセカ)」で、以前からトラブルが起きていたようです。
「プロセカ」は、ボカロ曲を使ったリズムゲームで、初音ミクなど人気ボーカロイドも登場するスマホ向けソーシャルゲームです。2020年に公開され、2022年にユーザー数1000万人を突破しました。22年当時は月間ログインユーザー300万人とも報じられています。10代20代に人気のタイトルで、学生から何度か名前を聞いたこともあります。
この「プロセカ」、2024年3月に運営が参加クリエイターへの誹謗中傷をやめるよう呼びかけたことが報道されていました(※)。
※「『プロセカ』運営が参加クリエイターへの誹謗中傷をやめるよう注意呼びかけ…物議を醸すバランス調整については、方針を赤裸々に説明」(INSIDE)
https://www.inside-games.jp/article/2024/03/28/154012.html
参加クリエイターはセガの社員ではないはずですが、この呼びかけのなかで、運営に対しても過度の公平性を要求するユーザーがいると指摘していたようです。以前は開示請求手続きしてから相手方が特定できるまで半年以上かかるのが相場でしたが、プロバイダ責任制限法(情報プラットフォーム法)が22年に改正されて、開示請求手続きが迅速化されています。3月に呼びかけをして、それでも収まらなかったので開示請求を行い、中傷者と交渉したとすると、だいたい今ぐらいに結果が出るような気もします。
ちなみに、このリリースには、セガの「カスタマーハラスメントポリシー」(※)へのリンクもありました。
※https://www.sega.co.jp/customer_harassment_policy/
セガはどんな行為をカスタマーハラスメントとして想定しているのだろうと見てみたら、最初のあたりは、
など、厚生労働省のガイドラインにも掲載されているような、よくあるカスタマーハラスメント行為が列挙されていたのですが、
という項目もあって、びっくりしました。
こんなことをされたら精神的負担はかなり大きなものになります。今回の法的措置のなかでこういう行為を受けたかどうかはわかりませんが、個人としてソーシャルメディアで発言していて絡まれたのならとにかく、業務を遂行するなかで被害にあったのなら、確かに会社が対応すべき問題だと思いました。
共感社会と企業リスクの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方