ライン川紀行~“父なるライン”を行く~
自然と歴史・文化の交響詩

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2018/11/26
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
5年前(2013年)のことである。私は、8月末から9月初めにかけてライン川を1週間かけて下った。当時の紀行文を一部リライトした上で再録することをお許し願いたい。私には忘れがたい海外視察の<豊かな旅>だったからである。
夏から秋に季節が移り変わる時期であり、冷たい雨が横なぐりに降りつけたかと思うと、翌日は夏のなごりの暑い日となるといった気候変動の激しい時節であった。ヨーロッパを代表するこの大河をぜひとも訪ねてみたいと思った理由は、もとより国際河川が流域に刻んだ歴史・文化とその現実を知りたかったからではあるが、「河川と環境」「河川と景観」「河川と癒し」との今日テーマを探ってみたいと考えたからでもあった。(ヨーロッパの歴史的知識がないと、ライン川の魅力は半減する)。今日のツーリズム(観光政策、観光産業)のあり方を大河川の整備事業との兼ね合いで探ってみたいとも思った。内外からの観光客を引き付ける「荘厳さ」「華麗さ」も大河の魅力のひとつである。そして何よりも、「ローレライの歌」(ハインリッヒ・ハイネ作詞、フレドリッヒ・ジルヒャー作曲)が詩・メロディともに好きだったからである。
♪なじかは知らねど、心侘びて、
昔の伝えは、そぞろ身にしむ
さびしく暮れゆく、ラインの流れ
入日に山々、赤く映ゆる♪(以下略)
近藤朔風の訳詩は独創的であり名訳である。
◇
ライン川は、国際河川だけにドイツ語ではDer Rhein、英語ではThe Rhine、フランス語ではLe Rhinと表記される。スイス・アルプスに源を発し、リヒテンシュタイン、オーストリア、ドイツ、フランスを経て、オランダで北海に注ぐ。長さは約1320kmで、日本最長の信濃川の3.6倍である。流域面積は約22万4000km2もあり、日本の本州の面積にほぼ等しい。ヨーロッパ大陸では、ドナウ川に次いで二番目に大きな川である。流域の大半を占めるドイツの国民は、ライン河に愛着を込めて「父なるライン」と呼ぶ。一方、ドナウ河に対しては「母なるドナウ」と言う。Rhein は古代先住民族のケルト語の動詞「レーン」(Rhen、奔流する)からきているとされ、英語のrun 、ドイツ語のrennen (いずれも「走る」)と語源を同じくする。流域にはクリストフォロス聖人伝説が語り継がれている。
私は、まずオランダに入り、河口部のロッテルダムとその国際港(ユーロポート)を視察した後、水源地であるスイスに空路飛んで、最上流部から「ライン紀行」を開始することにした。ライン川の流域は通常、「アルプス・ライン」「高ライン」、「上ライン」「中ライン」「下ライン」の5流域に区分される。ボーデン湖に流入するまでの「アルプス・ライン」は今回敬遠して、「高ライン」から探訪を始めた。今回は「高ライン」は通過して、「上ライン」から紀行文を始める。
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