2019/03/08
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』

様々な「橋渡し」役
リエゾンとは、フランス語で「つなぎ」「仲介」「橋渡し」を意味します。
災害派遣医療チームのDMAT(Disaster Medical Assistance Teamの頭字語「DMAT」)で活躍される方は救命医の方も多く、赤ちゃんや妊婦さんという特別な配慮が必要な人には、専門医のアドバイスが必要になってきます。その災害医療と専門医療をつないで橋渡しするのが、災害時小児周産期リエゾンの役割です。
マンガの中でもこんなシーンがありました。妊娠8カ月の妊婦さんが自宅のタンスが倒れて自力脱出したものの、救助後に破水が始まります。みなさんは妊娠8カ月がどんな状況かわかりますか?やはり専門家ではないと状況判断が難しいですよね。当初、緊急搬送先に選ばれたのが、産科のあるS病院。しかし、ここで災害時小児周産期リエゾンが登場して、「搬送停止」を指示します。S病院にはNICU (Neonatal Intensive Care Unit、新生児集中治療室)がなく、27週の赤ちゃんが生まれても助けられない状況だったからです。災害時小児周産期リエゾンの医師がDMATの医師に連絡をとり、妊婦さんの状況を間接的に確認しつつ、NICUのある病院へのヘリ搬送を手配していくシーンです。
ここで、災害時小児周産期リエゾンの存在がなかったら、赤ちゃんの命が危険になっていました。役割の重要性がよくわかるシーンです。また、災害時小児周産期リエゾンは、DMATとの連携だけでなく、行政との調整も重要な役割となっています。
専門医同士は日常から連携がとれていたりするのですが、いざ被災してみると、行政との連携がうまくいかず混乱するということが各地の災害現場で起きています。そのため、行政との橋渡しを実施するのが災害時小児周産期リエゾンの役割です。
災害時小児周産期リエゾンのお話を深める前に、DMATがなぜできたかということについて簡単に説明します。
医療界には、「防ぎえた災害死」と言われる言葉があります。医療が適切に介入すれば避けられた可能性がある災害死として、PDDと呼ばれています(preventable disaster death; PDD)。この防ぎえた災害死は、阪神・淡路大震災では、500名以上になると言われています。その反省からDMATが設立されました。
DMAT、災害派遣医療チームとか聞くと、被災現場にガンガン入っていって、がれきの中から人を救い、その場で聴診器をあてたりして、人命救助するようなドラマのシーンを想像する方も多いのですが、重視されているのは、情報収集体制と搬送体制です。
医師の方々が、聴診器を首に下げるわけでなく「広域災害救急情報医療システム」にパソコンで入力作業をされているのです。でも、この作業が本当に重要で、これがあって初めて命が救えるのです。ここ「コウノドリ」でも書いていますので読んでみてくださいね!
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方