2019/04/03
講演録
■復唱させて確認する
怒鳴り散らすこともありました。普段優秀なやつでも、危機の際には、頭が真っ白になってしまうんです。家族のことを考えたり、津波のことや、家のことを考えれば、当然です。そういう人間がいっぱいいたので「今、俺が何言ったか言ってみろ」と繰り返させたりして、具体的に指示をするように常に心掛けました。
■先手を打った対応
もう一点、あまりお話していないことですが、福島第二の施設内に、福島第一の人が来る場所と、治療する場所をかなり早い段階で作りました。これは先手が打てた対応だと思います。
ある新聞報道では、福島第一の所員が第二に「逃げた」という書き方をされましたが、あれは逃げたのではなくて、福島第一が危ない状況になったと聞いた直後から、当然、福島第一の所員はこちらに来ると思っていますから、その準備をしていたのです。ただし、福島第一はもう汚染されている危険がありますので、第二の中にそのまま迎え入れてしまうと、今度は第二の所員への対応が困難になってしまいます。そこで、第一の所員は絶対に第二の所員のところに入れるなという指示をしています。これが第一の人たちから見ると、「第二が第一をゴミ扱いした」ということで、いろんなところに取り上げられたわけですが、私は、今でも正しい判断だったと思っています。
■絶対席から離れない。理解させ、不安を取り除く
最終的には全て自分の責任だということを言っています。そして、私は絶対席から離れない。本当は現場に行きたくて仕方がなかった。でも、やっぱり私が離れてはまずいと思ったので、じっと座っていました。私の直属の部下で、キーパーソンになる人間を対面に座らせて、一緒に対話をしながら対応を進めるようにしました。普段通り振る舞い、笑顔でいるようにも努めました。大きな声でわざと冗談っぽく言ったり、これからどうなるという話を分かりやすく説明したり、原子力に詳しくない人間の不安を取り除くために、いろんなことを言っています。
毎日朝晩、全員で定例会議も開きました。これは、プラントの状況を全員に理解させる、あるいは分からないことは分からないというのをしっかり皆に理解してもらうためです。
■全員に役割を持たせる
それから、全員に役割を持たせるようにしました。こういうときは、全然何も役には立てないという人が出てきてしまうものです。ですから、「悪いけど、お前は届いたペットボトルを全員に配る役割だから、明日から毎日朝晩ペットボトルを配ってくれ」とか、トイレ掃除、シャワー室を掃除する人などすべて役割を持たせました。サッカー選手だった女性には毎朝の体操の指導を担ってもらいました。その結果か、何週間かたった時に看護師さんが私のところに来て、「うつが治った人が増えた」と報告を受けました。原子力事故でうつになってしまった人がたくさんいるんですが、役割を与えられて、皆と一体となって活動しているということを感じてやる気を取り戻してくれたのでしょうかね。やはり普段から、一緒になって歯車となって活動しているというのが分かるというのは、とても大事なことなんだと、改めて学びました。
■情報の流れを考慮した席の配置
ちなみに、私が座る場所についても、事故の1カ月前にやった訓練で、なるべく皆とアイコンタクトを取りながら話ができる場所に変えています。私の後には、現場の情報を持っている人間がいて、その後ろにはプラントの情報を全部握っている人間がいるので、私の前で話をすれば、ワンストップで情報が取れるということもあって、席の配置を変えました。当然、事故対応もこの席順で行いました。やはり、こういう改善も考えて訓練をやるべきだと思います。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/09
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/09/05
-
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方