助かるためにできること

岩崎容疑者ははじめに小山さんを背後から刺し、それからわずか10数秒の間に70メートルほど移動しながら車道側に並んでいた小学生らを次々と襲っていたことが捜査関係者への取材で分かっている。

凶器とみられる2本の柳刃包丁はいずれも刃渡りがおよそ30センチあったということで、警察は殺人の疑いで捜査するとともに、なぜ、バス停で通学バスを待っていた子どもたちを執ようにねらったのか? 学校に対する怨恨や計画性など、詳しい動機を調べている。

今回のこの事件を受けて、過去の同様な事件の振り返りの時に結果論として言われたことを実践していれば防げたかもしれないと感じたが、過去の事件と大きく違うのは、犯人が両手に柳刃包丁を持っていたということであり、「そのとき何ができたのか?」を考え、また、これから何ができるのか? 「Drop、Run、Call(荷物を捨てる、走って逃げる、通報する)」をベースに考えてみた。

もちろん、できるかできないかはケース・バイ・ケースであり、また、必ず助かるといった前提ではないが、もし、助かるために何かできたとしたら、どのタイミングで何をどうできただろうか? という視点で書き出してみた。

1. 早く危険を察知したり不審を感じた人が、「早く逃げろ!」など、大声を出して、注意喚起する。

2. 犯人が向かってきたら、重たい荷物を素早く捨てて、周囲に知らせながら逃げる。

3.逃げる際に身を軽くするため、逃げながらランドセルや荷物をその場に捨てて車道ではない方向へ逃げる。ワンタッチで脱着できるランドセルがあってもいいと思う。

4.もし自分の子どもが襲われるような状況で、ラクビーや格闘技の経験がある親などの場合、犯人の真後ろにアプローチできるようであれば、犯人の両足下部に後ろからタックルして前側に倒し、そのままズボンのすそを持って、動かないように押さえ込む。犯人が倒れたときに手をつこうとして武器を離す可能性もある。また、押さえ込んでいる人以外が、包丁を持っている指を踏むか、包丁の取っ手を蹴って、武器を手放させた後に犯人の背中を押さえ込む。犯人の武器を使って、犯人を殺してしまうと過剰防衛の可能性もあるため注意。

5.自分の背部がコンクリートの壁など、追い詰められた状態で、真正面から両手に柳刃包丁を持った男が襲ってきたら、犯人は利き手をメインにして振りかざすのと両手を同時に振りかざす可能性は低いと思われる。その時に持っているもの(かばんやランドセル)で自分の首や心臓部、内蔵部を守りながら、逃げられる方向に回り込み、逃げるしかないと思う。

6.バス停やバス内の子どもが届く位置にパニックボタン(非常警報装置)とライブ通報型防犯カメラを設置。ボタンを押した瞬間、警察や消防にGPS情報が伝わり、指令を受けた警察や消防はライブ映像カメラレンズで映る範囲ではあるが状況を確認し、必要装備を出動車内で準備、または着装して現場に向かう。

7.消火器や屋内消火栓、スプリンクラーなどの消防設備は法整備されて、日本国内に普及し、火災を減少させた結果を出している。非常警報設備(非常警報ボタンや防犯カメラ、非常警報スピーカーなど)も同じく、一般の方々が使えるように普及させるべきではないかと思う。非常警報スピーカーは大音量の自動音声で、事態の発生を周囲に伝えて、避難を促し、また、同時にATMのカメラのように事態の一部始終を記録し、できれば、通報先の指令センターにライブ映像が映し出されてスピーカーで犯人を説得したりできると思う。さらに警報設備と救急設備のセットがあるとさらに救命率は高まると思う。

救急セットは、居合わせた医療関係者や救命法のトレーニングを受けた人ばかりで鳴く、バイスタンダーやファーストレスポンダーなど誰でもが使える状態の方が望ましい。


Future of First Response: Vision for Emergency Medical Services(出典:Youtube)

8.警察官をはじめ、一般の大人、子ども達にも止血法や心肺蘇生法を教えておく。諸外国では、10歳以上の子ども達が、自分たちしか居ないときの自己防衛手段として、救命法や事態対処術を教えている。また、警察官も現場で救命行為ができるようになるための訓練や派出所やパトカー内に救急セットの常備し、現場へ持参することで、警察官自らが使用したり、また、居合わせた医療関係者、救命トレーニングを受けた人などが使うこともできると思う。公共の場所に救急セットや非常警報装置を設置することで、いたずらを気にする方もいるかもしれないが、既に電車内や駅ホームに非常停止ボタンが設置されており、有効に活用されている。屋内消火栓の起動ボタンをいたずらする人はほとんどいないだろう。

それらの防犯設備の維持コストが大変な場合は、広告付きの非常警報装置や救急セットにするといいかもしれない。

近未来には、非常警報装置とセットで、人感小型ドローンにより、救急法、避難方向の選択肢を受けたり、また、ドローンからペッパーガスやペイントマーカー液を噴射したり、スズメバチのように体当たりするなど、犯人と対峙させることもできるかもしれない。もちろん、ドローンにはビデオ、マイク、スピーカーを積載させ、映像や音声を記録させると同時に犯人への説得もできるようにする。

いずれにしても、それらの設備が整うまでは、どこで何が起きたら自分はどうするという選択肢を1つ以上持っておくことで、最低限ではあるが、身を守ることができるのかもしれないと思う。

また、バス会社や公共施設管理者の安全配慮義務として、ナイフによる殺傷や交通事故を想定し、止血と心肺蘇生法に必要な装備(感染防止用手袋10枚、人工呼吸用シート10枚、大量出血時の止血用ガーゼやタオルなど)を含んだ救急セットの配備や救命トレーニング、簡易警棒の使い方をバスの運転手や学校側関係者などへ定期的に受講する必要があるのではないだろうか。

今までも、下記のような学校防災・防犯ワークショップなどを通じて、保育園や学校内での不審者対応を教職員の方々に実践していただいてきたが、バス停や通学路での不審者対応訓練の必要性も感じた。

特に学校保健安全法29条に規定されている、学校が作成して事態に備えておくべき「危機管理マニュアル」の作成と見直しなどが早急に必要だと思う。