2019/06/18
医師が語る感染症への知識のワクチン
予防策:2回の予防接種で99パーセント免疫がつく
麻疹の予防で唯一有効なのは予防接種です。2回の予防接種により、99パーセントの人が免疫を持つことができます。
日本では1966年に麻疹ワクチン接種が開始されましたが、当初は、不活化ワクチンと生ワクチンの併用でした。副作用の軽減を目指し1969年からは高度弱毒ワクチンに切り替えられ、さらに1978年からは1回の接種が定期予防接種として組み入れられました。1989年に一時、麻疹・おたふく風邪・風疹の3種類のワクチンを混合したMMRワクチンが導入されましたが、おたふく風邪ワクチンによる無菌性髄膜炎が多発したことを受け1993年に中止となりました。その後再び麻疹単独のワクチン接種が行われていましたが、2006年以降は麻疹・風疹混合のワクチンの2回接種が開始されました。1回もワクチン接種を受けていない人や、受けても免疫が十分でない人を対象に追加措置が行われています。
もし麻疹患者と接触し、緊急に発症を予防したい場合は接触後72時間以内に予防接種をすることで発症を防ぐことができる可能性がありますが、100パーセントではないとされています。また接触してから5~6日以内であれば、γグロブリンの注射で発症を抑えることが可能ではありますが、これは医療者とよく相談する必要があります。
まん延への対策として、一番は2回の麻疹予防接種を確実に行うことではありますが、感染者があった場合は、その人からの感染拡大を抑える必要があります。それには麻疹という診断を確実に行う必要があります。最近は麻疹患者の減少とともに実際の患者を診察した経験のある医師が減少しており、正確な麻疹の診断をするために、臨床診断に加えて、病原体の確認や抗体の上昇による検査を行うことが必要とされています。確実な診断がつけば、他の人との接触を避けるなどの防御ができるわけです。
対策・治療:まずは電話で受診方法を確認
症状が出現し、麻疹を疑った場合は、診断を受けるために医療機関を受診するわけですが、その際に症状とともに麻疹の可能性があることを受診先に電話などでまず伝え、受診方法を聞くのがよいと思われます。麻疹患者が受診されると、院内にいる麻疹の抗体がない人では感染を起こす可能性が高いことになり、そこから感染が拡大するおそれがあります。そのため、診察までの待機場所などをあらかじめ確認しておく必要があります。
麻疹に対する特異的な治療はないといわれていますが、非常に重篤になる場合があり、確実に診断されることは重要です。治療は主に対処療法になりますが、入院しての治療が必要になることもあります。麻疹は5類感染症になりますので、医師は診断したり、可能性が高いと判断したときは速やかに保健所に届け出をし、その後保健所職員が本人に接触し、感染の可能性について問診を行ったりあるいは正確な診断のための検査を行います(受診した医療機関から提出された検体の検査を含め)。
終わりに:正確な情報を
麻疹は感染力の高い、生命をおびやかす可能性がある疾患です。昔のように、1度かかれば2度とかからないので、1回はかかっておいた方がよいなどの考えは、全く通用しません。世界中から麻疹を撲滅するために、正確な情報を入手し確認しながら感染を防ぐ注意が必要です。
(了)
医師が語る感染症への知識のワクチンの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方