2019/06/28
危機管理の神髄
あなたは同僚たちと自分たちの置かれた状況を話し合う。他にやるべきことも分からず、シェルターにとどまり救助を待つ。みんなで協力して全ての窓を密閉し、食料と水を探し回る。経理課員たちは、乏しい配給をみんなに公平に分配する方法を取り決める。
その日のうちにラジオの電池がなくなり、切り離されたように感じ始める。同僚たちが落ち着かなくなる。何人か事務所の避難所から出ていくことを決断する。彼らは、二、三人の組に分かれてばらばらに出て行く。誰も戻ってこない。
2日が過ぎる。まだ救助は来ない。ラジオニュースを聞けば、これからも救助が来ないのは明らかだ。唯一考えつくことは、家に帰ることだ。 そこで、あなたは自分で出ていくことにする。
外に出ると、8年近く毎日通勤した歩道は、全く異国の地だ。あなたの感覚が、いやな臭いと不気味な静けさに襲われる。八番街は、かつては昼も夜も四六時中、騒々しく活気があったが、廃墟だ。店舗は暗く誰もいない。
あなたは、北へ約13キロ行ったところにあるジョージワシントン橋がマンハッタン島からハドソン川を渡る唯一の橋だと知っているので、長い道のりを歩き始める。
廃墟となった歩道は、ごみとがれきでほとんど通行できない。どこを見ても死体ばかりだ。街路に車があふれているが、一台も動いていない。ほとんどの車が店頭に突っ込んでいる。
あなたは爆破区域の縁を辿りながら、その凄まじい破壊の様を見つめている。至る所で火が燃え、煙が空気に満ちている。目印となるものを見つけようと目を凝らして、やっとイースト川沿いにUN本部の残骸を見つけた。そして、マンハッタン島を横切って、ずっと見通していることに気付いた。ハドソン川からイースト川までの間にあった全てが消え去っている。
バス停を見た。人でいっぱいだ。立っている人も、座っている人もいる。皆死んでいる。川沿いに歩き、いつかの埠頭(ふとう)を過ぎる。いつもは、埠頭と埠頭の間にハドソン川の水面を見ることができる。今は、そこに水面が見えない。見えるのは死人だけだ。水が見える隙間がない。人が覆い尽くして、浮かんでいる。
トップの混乱
9月2日 月曜日 12:49 am
ワシントンDC、ホワイトハウス、シチュエーション室
大統領が一団の長官たちと話している。3日過ぎたが、何が起こっているのか、いまだに明確な状況が入手できない。
マンハッタンから伝えられる情報は、悪夢そのものだ。ミッドタウンの大半はまだ燃えている。何万人、おそらく何百万人が死亡したとみられる。緊急に捜索救助と医療移送などさまざまな救助活動を組織して、開始しなければならない。しかしながら、ほとんど何も始まっていない。誰が責任を持って、その救助活動を指揮指導するべきなのか、誰も分からないのだ。現場は、あまりに不安定で危険であり、派遣部隊の安全を保障できない。ほとんどの人が、救助部隊を危険な状況で置くことを恐れて、周辺的なことばかりに注力している。
陸軍と州兵隊が、急ごしらえのトリアージ現場本部へ、救護品を空中投下している 。しかし、あまりに少量で遅きに失する。
ニュージャージー州とコネチカット州は人があふれ、デラウエア州、ペンシルベニア州、ロードアイランド州は州境を閉鎖した。トライステート(3州)地区を閉じ込めて切り離し、彼ら自身の運命に委ねた。
FEMAが、メリーランド州郊外の無人のショッピングセンターに大規模な合同前線本部を立ち上げた。連邦政府の各省、非営利団体、私企業、大学の代表者たちも参加して慌ただしい動きだ。しかし、大統領が知る限りにおいて、それは被災現場の誰ともつながりがない。彼は随時現状報告を受けているが、メディアやテレビニュースよりも乏しい内容だ。死の灰が降ったフォールアウト現場に死者や瀕死の者が横たわっている、そして、数千の近隣市町村に散在する場所で防水シートや空き地に寝る人たちがあふれている、身の毛もよだつ光景である。
絶望が膨らんでくる。大領領の将軍たちは明確な命令が下されずいら立っている。階級間で意見の相違があり、将校たちだけで出動すると脅しているとの報告もある。
不確かであることはなじみのない感情であるが、大統領は長い3日間ずっと混乱していた。そして、今までにないほどゆっくりと長い夜が終わり、夜明けになったが、真実が二つ明らかになった。一つは、状況は悪いことー彼の補佐官たちが報告しているよりもずっと悪い。二つ目は、彼の政府はこの事態をコントロールする能力がなく、完全に圧倒されてしまったということだ。
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