2019/06/25
本気で実践する災害食
営業者と同じ許可証が必要?
これを聞いた私は不審に思い、担当課に電話で尋ねますと、職員が次のように返答しました。
「金銭授受の発生の有無に関わらず、全員許可証が必要です。炊き出しは不特定多数を相手に調理品を提供するので、その内容の概略を県としては事前に把握しておく必要があります。そのため、献立内容、調理者の内訳、人数などを聞き取り調査し、同時に保健所として衛生的観点から調理者に守ってもらいたい内容を書いたチラシを手渡しています」
もちろん、衛生管理を徹底させることは炊き出しボランティアに対して大変重要で、保健所が衛生の観点から注意を促すのは保健所の責務と考えます。しかし手数料を取りますか? 何のために? そして、ボランティアの炊き出し(好意的な奉仕活動)は営利目的ではないにも関わらず、営業者と同じ書式の許可証を発行しているのはおかしいのではないかと反論しました。
すると職員は、「炊き出しを野放しにすると食中毒発生の懸念があるため」さらに「営業という言葉があるからといって必ずしも飲食者に代金を要求する必要はない。無料でもよい。そこは任意です」と答えました。ボランティアは、営業の種類という項目では、飲食店営業「(臨時)」となっていて「飲食店経営者」と同列です。「営業」という言葉はボランティアの炊き出しにはふさわしくないので、「炊き出しボランティア向け許可証」という文言の認可証を別途作ってはどうかと進言しましたが受け入れられませんでした。炊き出しボランティア活動に「営業者の許可証」はふさわしくないので、ぜひ改めてほしいものです。加えて無料にすべきです。
たとえわずかでも被災者に飲食代を支払わせるのはボランティアの本質から外れていて、これまでの社会通念にも合いません。結局、炊き出し提供品と引き換えに1人100円を徴収しなければなりませんでした。
以上、前述の常総市の場合は受援体制があまりにも優れていて感動する一幕がありましたが、このケースは受け手(受援)が求めている事柄と助援側の間でコミュニケーションが合致しないため困りました。
受援と助援がかみ合わない
その結果はどうだったでしょうか?
食べに来てくださる方がチラホラで、作った料理が余るという残念な結果になりました。これほど無駄なことはありません。近くの掲示板を見て初めて気付いたのですが、この仮設住民は当日大型バスで観光に出かけていました。受援と助援がかみ合わなかった典型といえましょう。下手なマッサージ店に行って、ツボの外れた指圧を受け続けたときのあの不快な気分を味わいました。こうしたことは避けなければならないと心底思いました。とはいえ、全て失敗というわけではなく、住人は降り始めた小雨の中、傘をさして食べに来てくださいました。また、持ち帰りたいと希望する方にはお住まいまでお持ちして同行する一幕もありました。
しかし、なんだか腑に落ちません。土地の人にうかがった話では、背後にこんな事情があるというのです。
それは、昼間働きに出る人と在宅の人がいて、炊き出しの恩恵に浴する人とそうでない人がいるために、住民から不満が出ているということ。炊き出しがほとんど食べられない人から不公平だという苦情が出るというのです。だから、お金を取りましょうということになったとか。真偽のほどは分かりませんが……。
こうした不満を解消することも、実は進化につなげる道かもしれないとつくづく思うこのごろです。
(了)
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方