2016/05/24
誌面情報 vol55
松下村塾の流れを汲む日本大学危機管理学部
2019年に創立130周年を迎える日本大学。危機管理学部の開設はその記念事業の一環として構想されていたものだという。福田氏がその構想を大学本部から伝えられたのは、サバティカル制度を利用し、米コロンビア大学「戦争と平和研究所」の客員研究員をつとめ終えて帰国した直後の2010年4月のことだった。
日本大学の創立は1889年(明治22)。創設者の山田顕義は伊藤博文内閣で初代司法大臣を務めた人物だが、幕末時代は長州藩の倒幕の志士として活躍した。以降、長くなるが、危機管理学部創設の話につながるので少し詳しく書く。
顕義は幼少のころ、高杉晋作、久坂玄瑞など多くの幕末の志士を輩出した松下村塾の最後の門下生として、思想家・教育家である吉田松陰の薫陶を受けた。戊辰戦争では様々な戦いで指揮を執り、西郷隆盛から「用兵の天才」と賞賛されたことでも知られている。明治時代に入り、大村益次郎らとともに日本陸軍の創設にも密接に関わるが、1871年(明治4)に岩倉遣欧使節団として渡欧すると、ヨーロッパの軍制よりも法制度の充実に感銘を受け、帰国後は日本の法整備に力を注いだ。当時にあって、「法は軍に優先する」という信念のもと、シビリアンコントロール(文民統制)の重要性を日本で初めて提唱したのも顕義だった。これは現代における安全保障の考え方の先駆けともいえる。
その後、顕義は1883年(明治16)から1891年(明治24)まで司法卿・司法大臣として明治法典(刑法、刑事・民事訴訟法、民法、裁判所構成法など)の編纂に尽力。現在では日本の「近代法の父」とも呼ばれている。そして日本の法制度の次世代を担う人材を輩出するべく1889年(明治22)に創設したのが日本法律学校であり、これが日本大学の前身となる。
福田氏は「日本に大学はたくさんあるが、松下村塾の流れを汲む大学は日本大学だけ。日本大学が危機管理学部を構想したのは、学祖・山田顕義の建学の志を今に伝えたいという想いがあった。私もそれに大いに賛同し、新学部の創設に心血を注いだ」とする。
世界で初めての「危機管理学」。
オールハザードに対応する人材を育てる
日大危機管理学部では、学祖の遺志も汲み、危機管理を総合的に「法律」を通じて教える。そのため学生は卒業すると「法学士」となる。日本の災害研究分野は理系学部が中心であるため、全国でも珍しい取り組みだ。学生は2年次から「行政キャリア」と「企業キャリア」に分かれ、さらに「災害マネジメント領域」「パブリックセキュリティ領域」「グローバルセキュリティ領域」「情報セキュリティ領域」の4つの研究領域の中から履修モデルを組み、そのほかに法学系科目、語学のほか企業BCPやボランティア、インターンシップ、企業研究などを学ぶ。
企業キャリアで情報セキュリティを研究したり、行政キャリアでパブリックセキュリティを学んだり、組み合わせによって学生の様々な将来の道を選択できるようにした。個別の学科を教える大学は存在するが、これらの領域を全て網羅して教えることができる大学は、世界を見ても類がないという。教授陣も、研究者だけではなく警察庁や防衛省、法務省の出身者など実務経験豊富な人材を揃えている。
「もちろん、4年間で危機管理が全て学べるとは考えていないが、オールハザードに対応するために学生時代に最も学んで欲しいのは「インテリジェンス」だ。グローバル化した昨今では、地球の裏側で起こっていることは近い将来、日本国内でも起こる可能性が高く、いかにそれらを「自分ごと」に出来るかが大事だ。学生時代にその感覚を養ったのちに社会に出て実経験を積むことで、危機管理のプロをめざせるのではないか」(福田氏)
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