2017/01/30
未来のレジリエンス・テクノロジー
国土強靱化貢献団体認証(レジリエンス認証)の普及に向けて
一方、関連市場とは他の目的にも寄与するが国土強靱化にも寄与すると考えられる市場です。例えば、電気自動車市場は強靱化というより環境やエネルギー分野に深く関わるので国土強靱化の関連市場に含めています。木材を互い違いに貼り合わせて鉄筋コンクリートなみの強度と耐火性を持つCLT(直行集成板)を使った建築物やドローンは関連市場のなかで大きな伸びが期待されている分野です。
2013年で11.9兆円という民間市場がどれほどの規模なのか比較してみましょう。実は、国や地方公共団体が行う強靱化関連の公的支出のうち、公共投資額を推計すると約10.4兆円になります。つまり、国土強靱化の民間市場は公共投資額と同等の市場規模があるわけです。乗数効果を勘案すると民間市場で13.6兆円のインパクトがあると推計されました。
国土強靱化の民間市場は2020年になるとコア市場だけで約11.8兆円~13.5兆円になると見込まれます。これは2013年から実質年率で5.8%~7.8%の伸びになります。技術革新も期待でき、長期的な経済の成長にも寄与することで経済の底上げにつながるとも言えます。是非、企業のみなさんに積極的に国土強靱化市場に参入し、技術開発にも投資していただきたいと思います。
この2月に内閣官房が「国土強靱化貢献団体の認証に関するガイドライン」を発表し、これに基づいて民間の認証実施機関が進めているのが国土強靱化貢献団体認証(レジリエンス認証)です。
昨年7月に第1回の認証審査を通過し、44団体がこのレジリエンス認証を取得しました。BCPの策定率は平成27年時点で大企業は6割ですが、中堅企業だと3割しかありません。この制度には、国土強靱化の裾野を広げるためにBCPの策定を後押しする意図があります。
BCPを整備しそれに基づいてしっかり事前対策を行っている企業は、事業継続できる確率がより高くなり、取引先からも信用を得られるはずです。しかし、実際のビジネスでは必ずしも有利な取引条件を得られていないのが現状です。
それは、BCPを策定して事前対策をしっかり行っている企業と何もしていない企業の違いが、実際に災害が発生するまで分からないからです。これをそのままにしておくと事前対策を行う企業はだんだん減っていくでしょう。
そこで、BCPを認証する制度を整え、外部に向けて表示する仕組みがあれば、事前対策の努力が適正に評価されることにつながります。これまでは、コストをかけて努力してBCPを策定し、訓練を重ねて対策していても、インシデントが発生しないと役に立つかどうかわからない状態で、はたから見たらBCPのある企業とない企業を区別できませんでしたが、そこを可視化するのがレジリエンス認証になります。
2014年に東京商工会議所が会員企業の経営者に実施したアンケートによると「取引相手にBCPの策定を条件にしている」「BCPの策定を要求している」との回答が全体の約5.6%ありました。東京商工会議所の会員数は約7.7万社あるとのことですので、その5.6%というと約4300社の中小企業の経営者が、東京23区内だけでも、取引先にBCPの策定を求めているとも推測できます。
現在、そうした経営者は自分の目で取引先のBCPの有無や信頼性を判断していると思われます。しかし、レジリエンス認証制度を利用していただければ、専門家の目でみたBCPの信頼性をチェックできるわけで、そこにこの制度の潜在的な需要があるものと考えられます。つまりBCPの裾野が広がっていくと考えられます。

レジリエンス認証の取得要件は基本的な事業継続の方針策定やリスク分析、対策の実施などですが、ただBCP文書をつくり上げただけでは機能しないので、それが実際に活用されているのかどうかを重点的にチェックしています。”生きたBCP”にするために、審査では文書審査だけでなくヒアリングを重視しています。経営のトップレベルが関与してBCPを運用できる体制になっているのか確認します。
また、定期的な見直しが重要なポイントになります。この認証を取得するためには、BCPを策定してから最低2年間の運用が必要となっており、実施した訓練や演習をもとにした改善記録を提出してもらい、改善などのマネジメントがきちんとできているかを確認します。
この認証はレジリエンスジャパン推進協議会が実施しますが、認証審査はその中に設けた認証審査委員会の専門家が行います。審査では、専門家が単にマルかバツかをつけていくだけではなく、そのBCPの持つ問題点や改善点などを指摘します。認証過程で審査委員から様々な改善へのヒントが得られる制度でもあり、認証自体がBCP策定をアシストする制度でもあります。
レジリエンス認証を取得すると内閣官房国土強靱化室のHPに認証団体として掲載され、PRにもなります。広告や名刺にもデザインできます。また、レジリエンス認証の取得でより低い金利で貸し付ける制度もスタートしています。紀陽銀行には通常の金利より0.2%低いビジネスレジリエンス対策ローンがあります。

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