安否確認の基本 
それでは、いかに安否確認の体制を整えればいいのか。 

まず、基本的な考えとしては、以下の4点を決めておくことが重要になる。


①どこで、どのような事態が起きた時
どこで、どのような事態とは、単に「震度5強以上の地震」とするのではなく、全国各地に支店がある場合や、出張者が多ければ、「国内で震度5強以上の地震」という取り決めが必要だろうし、地震以外の風水害や大規模事故が起きた場合はどうなのかの基準も決めておいた方がいい(例:交通機関に大幅な遅延が生じる場合、明らかに通常時とは違う混乱が生じている場合など)。

②誰が誰に対して
誰が誰に対しては、東日本大震災のような大災害なら人事部が全社員に対して、ということになるかもしれないが、逆に、いくつかの事例で紹介したように、社員が本社○○部に対して報告するという方法もあるだろう。また、例えば数人の従業員が他県に出張している際に災害に遭遇した可能性がある場合などは、東京の本社が安否確認システムを使って全社員に安否の確認を取ることは効率が良いとは思えない。出張している社員が特定できているなら、所属部門が出張者に対して安否を確認して人事部に報告するなどのルールを決めていかなければならない。 

同様に、会社からの連絡を待たずとも、従業員が能動的に会社あるいは所属部門に連絡をすることを併せて取り決めておくことも有効かもしれない。例えば、出張先で、明らかに自分の周辺が平時と違う状況になった時には、会社または部門に連絡をすることを決めておく、などだ。 

本社と支店においても、どのような場合に、本社・支店の誰が誰に対して連絡するのかを決めておく、従業員と家族間については、会社が関与することではないかもしれないが、家族内で話し合って決めておくことが大切だ。

③どのようなツール、手段で
ツールや手段は、安否確認システム、固定電話、携帯電話、メール・携帯メール、衛星携帯電話、MCA無線、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)など、さまざまある。ここでのポイントは、それぞれの手段やツールの特性を考慮した上で、誰が誰に安否を確認するかによって、使い分ける、あるいは代替手段を確保するということ。 

固定電話や携帯電話が災害時には輻輳することは、すでに過去の災害で何度も報告されている。そして、携帯メールなどを使ったパケット通信や、それと連動した安否確認システムも万全でないことが東日本大震災で改めて明らかになった。もちろん、安否確認システムのメーカー各社は、サービスの改善を進め、当時よりは性能は上がっている。ただし、「どんな災害でも確実につながる」とは言い切れないし、そもそもシステムの端末(携帯電話)を安否確認の対象者が24時間、常に持ち歩いているとは限らない。 

こうした状況に対して、すべての安否確認の対象者に対して、同一の連絡手段を用いることは、予算的にも難しい。例えば全従業員に、安否確認システムと衛星携帯電話、さらに自宅に移動無線までを導入すれば、かなりの高い確率で安否確認が行えるだろうが、手間や費用を考えれば現実的ではない。 

より効率的な方法を考えるなら、例えば、特に早急に連絡を取り合う必要がある意思決定者やその代替者には、家庭の固定電話や個人の携帯電話・メールで連絡が取れるようにしておくとともに、衛星携帯電話などを持たせるなど、安否確認の対象者に優先順位をつけ、ツールを割り振ることが有効かもしれない。ただし、衛星携帯電話といえども万全ではない。場所や天候によっては使えないし、何より複雑な使い方を覚えなければ、いきなり使えるものではないことに注意が必要だ。また、社会インフラ系の企業なら、MCA無線を導入したり、災害時にもつながりやすい災害時優先電話を主要社員に割り振っておくこともできるだろう。 

一般の社員に対しては、固定電話、携帯電話、携帯メール、安否確認システムなどを組み合わせている企業が多い。最近ではフェイスブックやツイッターなどのSNSや、日常的に部署内の業務連絡で使っているグループメールなどを安否確認に併用する企業も多くなってきた。 

矢野経済研究所が行った調査結果では、今後、安否確認や緊急連絡手段として企業でSNSを利用する意向を聞いたところ、「既に企業として利用している」はわずか3.4%に留まったものの、「ツイッターやフェイスブックなど一般的なサービスの活用を検討したい」が21.7%、「企業用のSNSの活用を検討したい」が17.2%となり、合わせて38.9%の企業が、今後、安否確認などの目的でSNSの利用を検討したいと回答。震災後、携帯電話・携帯メールが不通となる中、ツイッターやフェイスブックが連絡手段として活躍したことは注目を集め、SNSへの関心が急速に高まっていることを裏付けた。