2020/06/24
中小企業の防災 これだけはやっておこう
②建物の代替
現行の建築基準法は、極めてまれな地震(震度6強以上)に見舞われた場合、建物の倒壊を防ぎ人命を保護することを目的としています。つまり、それらの大地震によって、建物にある程度の被害が起こることもあり得ます。そのため、建物を継続して使用できない場合の準備を進めておく必要があります。
1)自社の他の拠点を活用する
自社の他の拠点の建物被害が軽微であれば、その拠点で重要業務を継続します。
2)在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務を実施する
従業員が、自宅やサテライトオフィスで勤務することも対策の一つとなります。ただ、在宅勤務であれば、書類が電子化されており、それが被災後もアクセスできる状況にある、また業務に使用するパソコンが従業員一人一人に配備されているなど、準備を事前に済ませていることが前提となります。
③原材料・部品の代替
原材料・部品については、まず自社内の原材料・部品が被災によって使えなくなることが考えられます。この場合の対策は、自社建物の耐震性を確保して、そこにある原材料・部品を災害から守ることになります。
一方、原材料や部品の調達先が被災することによって自社への供給が途絶える場合に備えるには、次のような対策が考えられます。
1)在庫の量を見直す
自社内の在庫量を増やすことで、調達先の事業が復旧するまで待つ形をとります。
2)調達先を複数化する
一つの事業者から調達している場合は、二つ以上の事業者から原材料や部品を調達することを検討します。まず代替調達先を検討しておくことから考えるとよいでしょう。
3)調達先と連携して、双方の事業継続能力を向上させる
自社の事業は、自社の力だけで継続することはできません。調達先企業と連携して、事業継続計画に取り組むことを検討することが重要です。
この原材料・部品に関する代替戦略には課題もあります。例えば、在庫を増やすためには、その資金が必要となり、また保管場所など追加費用が必要となります。また、調達先を複数化することにより、1社調達で得られるコストメリットが失われる可能性もあります。
言い換えれば、これらの代替策には、平常時に追加の費用が必要となる場合が多いことから、平常時と緊急時のバランスなどを検討しつつ、経営者が最終的に判断する必要があります。
【ここがポイント】
BCPでは、被災時に欠けた経営資源をどのように補うかという代替戦略が極めて重要です。そしてそれらの代替戦略は、平常時に整備しておくことが求められます。
1. 従業員の代替は、業務の標準化とマニュアル化が必須となる
2. 建物は、まず防災活動の段階で十分な耐震性を確保する
3. 原材料・部品は、在庫量の見直しや調達先の複数化を検討する
中小企業の防災 これだけはやっておこうの他の記事
- 第26回【最終回】:まとめ 防災活動の必須ポイント
- 第25回:防災活動の次に考えること その7
- 第24回:防災活動の次に考えること その6
- 第23回:防災活動の次に考えること その5
- 第22回:防災活動の次に考えること その4
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方