2013/09/25
誌面情報 vol39
犬のニッキは、普段とってもうるさくてじっとしていない、鳴いてばかりの犬なんですが、夫に抱かれても、もう沈黙の犬になっていました。
気づくと水が引いているようで、部屋の水が膝ぐらいになった時、夫は中の様子を見てくると入りました。「奥のかな恵の部屋が、水の引きがいい。2階5つの部屋がくっついてて、窓もしっかり閉まっている」とのこと。
夫は「今晩の休む場所を用意する」といって、また中に入りました。夫はすごい人だと思った。明日に希望をもって行動してるんです。机や箱物を集め高く積んで、戸板を置いて、多少は濡れているけど、布団も用意しました。
かな恵はペンほどの電池をみつけてくれたし、夜中寒さがきびしくなった時は、電池を照らしてカイロを5つ見つけて、夫と私に2つづつと自分は一つ。これもありがたかった。
夫は腕時計を掛けていたので、時間の確認ができ、月あかりで、外の様子がわかった。水はたっぷりあった。夫は、「ここは、どこ」とせっかちに聞く。「焼却炉の南」と答えるが、納得なし。
(後でわかったことは、家が動いた時から流されていた時間帯、夫は全く何も見えてないのです。空白で意識が失せていたというのです。私は、鮮明にその光景が映像になって残っているんですが)
私は声には出さないですが、全身をこめて、呪文を唱えていました。夫は、声を出せ、何かしゃべれ、眠るな…と、夜通し私たちに声をかけてくれていました。
すこしずつ明るくなって、夫に「昨日、瓦礫から引き寄せた、棒を持ってきて。なるべく長いものを」と頼みましたら、物干し竿があったと、長いのを部屋に入れてくれました。かな恵の赤いバスタオルがあったので、紐をさがして竿にくくりつけ旗にしました。
夜明けと共に、夫とかな恵は旗ふりをしました。私は立ち上がれず、北の窓を開けて、棒にシャツを結わえて振りました。窓から下を見たら、常磐線の線路が西におし流され、そこに瓦礫がたまり、我が家はそこで止められていたのです。焼却炉もすぐ北に見えました。
ヘリコプターが飛び、八時ごろと思うが、山下駅の方向からの救出が始まりました。10時ごろと思う。ベランダの二人の会話がはずむように聞こえ、間もなく、
「早くベランダに出て顔を出せ」というのです。長男の克哉の姿が見えるとのこと。
南方より瓦礫を越えて来る息子を確認、間もなく娘の夫の英一さんの姿を確認、もう一人、私の後ろの家の寺島さんでした。寺島さんは、お母さんが行方しれずで探しておられたとのこと。寺島さんも私たちの脱出を最後まで手伝ってくださいました。
ベランダ側は海なので、北の窓からの脱出。都合の良いことに、瓦礫の中からはしごを見つけてくれたのです。山のようなどろんこの瓦礫の上に折れ曲がった梯子がかけられました。英一さんの長靴を順番に借りて、寺島さんと息子に支えられ、かな恵、私、夫の順に脱出しました。
命のあったのもつかの間。日に日に隣近所、友人知人、縁戚と、聞くのは訃報のことばかり。全身の力も抜け、やり場がなく、自分はすべての物をなくした悲しみで数日が過ぎました。
その時、みやぎ民話の会の島津信子さんが来てくれたのです。とてもよろこんでくださったのです。抱き合って、泣いて、泣いてよろこびました。「みなさん、心配してくださっておられた」と。その時、「あっ、私には民話が残っていた」
喪失感が覚めたのです。皆さんも被災者なのに、私一人が被災者のようにお励まし頂きました。皆さんのやさしさに感激しきりでした。
再起への力は民話からもらいました。
民話はやさしい
民話は熱い
民話は強い
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